表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法絵師のミーラークルム  作者: 涼森巳王(東堂薫)
終章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/53

51話 グリンヴィアの呪い



 王妃さまの幻影はすぐに消えた。

 そういえば、父さまの描いたその絵は、年に一度、奇跡が起こるよう細工がされていた。ほんとは何月何日と決まった日だけなんだろう。今は突発的に起こった奇跡だったので、具現化させる力が弱かったんだ。


 そのときにはもうヴィヴィ兄さまはフィーが押さえていた。


「ヴィヴィ。しっかりしろ。正気に戻れ!」


 だけど、兄さまの目つきはやっぱりおかしい。わたしのことも、フィーのことも認識してない。どこか冷めた感じで見てる。まるで、人間の世界はすべて壊されてしまって、それをしたのがわたしたちだって信じてるみたいな目。魔物を見るような。


「暗殺は失敗か。しかたない。報告へ帰ろう」

「何を言ってる。ヴィヴィ。おまえ、アダマンテで何があったんだ? 誰にあやつられている?」

「あやつる? 私は誰にもあやつられてなどいない。ジャマだ。どけ」


 信じられないことに、成人男子のフィーが馬乗りになってるっていうのに、華奢なヴィヴィ兄さまの手がかるく押しただけで、フィーは倒れた。そのすきに、ヴィヴィ兄さまはバルコンへ走っていく。両びらきの窓をあけはなち、そこから飛びおりる。自殺行為だ。ここが何階だと思ってるのか。空と庭木の見える高さから言っても、少なくとも三階以上。


「ヴィヴィ兄さま!」


 わたしたちがかけよったときには、ヴィヴィ兄さまは空を飛んでいた。どっちかっていうと滑空に近かったかもしれない。半分透けた純白の翼がその背に輝いている。


「……魔法だ」


 悔しげに、こぶしをにぎりしめて、フィーがつぶやく。


「魔法? 魔法なんて、中世じゃないんだよ? そんなの、とっくにこの世から消えてる。残ってるのは魔法絵の奇跡だけ……」


 自分で言って、ハッとした。

 魔法絵だ。魔法絵の起こす奇跡を利用して、翼を一時的に出現させた。たぶん、手帳くらいのごく小さな魔法絵をふところに忍ばせていたのだ。鳥か天使の絵でも。


 フィーは続ける。


「隣国で四百年前に死んだ大魔法使いグリンヴィアを知ってるか?」

「物語で読んだことはある。邪悪な魔法使いで、人々をとても苦しめたって」

「そいつが蘇ったってウワサがあるんだ。隣国では数年前からささやかれてる」

「まさか……」


 魔法絵。魔法使い。いなくなった父さま。大量の芥子粒の密輸出——もうわかった。そういうことだったのだ。


「父さまがムリヤリ描かされたのは……グリンヴィア」

「そう。たぶん、言うとおりにしないと君を殺すとでも脅されて」

「そんな……」

「ヴィヴィは復活したグリンヴィアに心をあやつられてる」


 グリンヴィア……どんな物語にも悪役として出てくる邪悪な魔法使い。誰がそんなものを蘇らせようと考えたのか。隣国で何が起こってるのか。

 父さまは?

 兄さまは?

 二人を助けられるの?


「そなたたち」


 王さまの声で我に返る。そうだった。王さまの御前だ。わたしたち、ものすごく、ぶしつけなことしてた。あわてて床にひざまずく。芥子乙女式はスカートの両端を手でつまんで、かるく片ひざをつく。貴婦人たちはスカートをつまむだけ。


「曲者から余を救ってくれたことには礼を言う。が、何が何やら、さっぱりわからん。説明をしてくれぬか」


 わが国の王、ジャスティエさま。王妃さまを亡くされたあとも再婚されず、今年で御年四十八歳。諸国のなかでも英君と名高い。近くで見るとダークアッシュの髪の渋いおじさまだ。亡くなった王妃さまとは美男美女でお似合いだなぁ。


 そのあと、わたしたちは知ってることを何もかも話した。王さまの命令で、秘密の通路から芥子粒が回収され、ベルディナル子爵は逮捕。フィーリオさんがザナヴィエさんを吐かせて、マジックポピー横流しの証言を得たのも大きかった。わたしのヴェネルティア神殿での冤罪も晴れたし、そうそう。おかげで、クノルエの悪事も明るみになった。


「そなたはマウリオ・デ・ルフィーリエの娘か。父に劣らぬ才能の持ちぬしだな。さきほどの奇跡はそなたがもたらしたのだろう? クノルエは捕まえ、牢獄入りとする。そなたは父の工房をとりもどした。自ら運営してはどうだ?」


 王さまにはそんなふうに言われたけど断った。


「わたしは魔法絵師として、まだまだ未熟者です。一人前になるまで、今の小さなお店で腕を磨くほうが、わたし自身のためになります。父の工房は二番弟子のバリヴィエさんに任せます」


 冤罪が晴れたので、ヴェネルティア神殿からも戻ってきてはと誘われたけど、それも同様に遠慮した。芥子乙女も楽しかったけど、やっぱり、わたしは絵を描きたい。


 それに、新たな目標がまた一つできたからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ