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魔法絵師のミーラークルム  作者: 涼森巳王(東堂薫)
終章

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49話 逃走のさきに



 ヴィヴィ兄さまがカンテラを持ったままなので、少しくらい離されてもずっと追うことができた。やがて、天然の洞窟が人工の敷石に変わる。地上の出口が近づいてる。


「ヴィヴィ兄さま! 待って!」


 長時間走って息が切れる。必死で叫んだけど、たぶん、わたしの声はヴィヴィ兄さまには届かなかっただろう。一瞬、前方がとても明るくなったのち、カンテラの光が消えた。さきに地上へ出ていったのだ。


「サリー。階段がある」


 フィーが言ってくれないと、きっところんでしまってた。はぁはぁ肩で息をするわたしを、フィーがひっぱってくれた。それでなんとか、階段をのぼりきる。


「あ……ありがとう」

「出口だ。光が見える」


 入ったときと似た壁に行手をはばまれる。そこに四角い光がもれていた。ここも隠し扉だ。あちこちさわってると、ドアノブみたいなものにふれた。まわすと、かんたんに壁が動く。内側からは鍵がなくてもあく仕組みのようだ。


 半回転した扉から出ていくと、階段がまっすぐ続いていた。そこをあがると、また壁。その壁も回転してひらく。今度こそ外へ出た。周囲は明るい庭だ。わたしたちが出てきた建物は古い霊廟れいびょうみたいだ。秘密の通路は建物のなかじゃなく、裏側の壁から出入りできるようになっていた。


「ヴィヴィ兄さま、いない」

「まだ近くにいるかもしれない。探そう」

「うん」


 庭を道なりに進んでいくと、大きな建物が見えた。

 豪華。スゴイ! こんな豪華絢爛ごうかけんらんな建物、生まれて初めて見た。これにくらべたら、ジルブラン伯爵家は部屋一室ぶんだ。そのくらい差がある。


 この豪華さ、ふつうの貴族の邸宅じゃない!


「古地図のとおりだ。秘密の通路の一端はジルブラン伯爵家。もう一端は——」

「そっか! 王宮なんだ」

「王宮の裏側みたいだ」


 人影が少ないのはそのせいか。

 中央に高い塔。左右の翼にその半分くらいの塔。あいだを四、五階建ての建物がつないでる。それらの屋上には、さらにいくつもの尖塔。

 庶民には縁のない場所だ。呆然と見とれてたわたしは、バルコンからこっちを見る人物に気づいた。


「ヴィヴィ兄さまだ!」

「たしかに」


 姿が見えたのは一瞬だけで、すぐ建物のなかへ入ってしまった。なんで宮殿のなかにいるんだろう?


 フィー(ほんとの名前は?)の顔つきが一段と険しくなった。


「サリー。こんな形で知らせたくなかったが、もうわかったろう? 私はヴィヴィエラじゃない。だまして悪かった」

「わけがあるんでしょ? だから、わたしに話せなかった」

「……」


 それでも、まだフィーは話すべきかどうか迷っていた。そのまま黙りこんで王宮へむかう。


「待って。話して。さっきのヴィヴィ兄さま、ようすが変だった。ねぇ、どんなこと聞いても驚かないから。歩きながらでもいい。話して」


 フィーは歩くのをやめない。かなり早足だ。でも、必死についていくと、低い声で語りだす。


「……ヴィヴィは一年前から行方がわからなくなっていたんだ。敵方に落ちたんじゃないかと案じていた。アダマンテへ行ったあと、消息を絶ったから。真実を告げれば、君が悲しむと思って黙っていた。すまない」

「じゃあ、ヴィヴィ兄さまが父さまを探しに旅を出たのはほんとなのね?」

「私がヴィヴィのふりをしてたこと以外、みんなほんとだ。嘘はついてない」

「でも、それなら、なんでヴィヴィ兄さまは敵の手下みたいになってるの? ベルディナル子爵に命令されてるのかな?」

「ベルディナルにそこまでの力はないだろう。弱みをにぎられたか……何かにあやつられているのか」

「あやつられて……!」


 たしかに、そう言われてみれば、そんな感じだった。どこか心の芯のほうで、兄さまの意思ではないものに動かされているかのような。ちょっと人形めいた感じ。


「兄さまを助けなくちゃ」

「ああ」


 早くもとの優しい兄さまに戻ってほしい。花を愛し、鳥や小さな動物を愛し、絵を描くのが大好きだったヴィヴィ兄さま。

 あの兄さまが何かはわからないけど、おかしな力にあやつられて、邪まな道に堕ちていく姿を見たくない。


 でも、わたしを見たとき、反応があった。きっと、かすかにでも昔の記憶をとりもどしかけたんだ。それは一瞬だったのかもしれないけど。攻撃をちゅうちょした。どうにかして、その記憶を完全にできれば、兄さまに取り憑いたものを祓えるかもしれない。


 待ってて。兄さま。

 今、助けるから。

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