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魔法絵師のミーラークルム  作者: 涼森巳王(東堂薫)
九章 大秘密通路

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47話 地下にひそむ



 しばらく調べてみると、印はほとんど全部の枝道についていた。バツ印がついているのは崩落して進めない道だ。マル印は崩落してはいないけど袋小路になってる。


「マル印はそのうち貯蔵庫がわりに使うつもりなんだろう。ということは、矢印が進む方角だな。ヤツらが道に使ってるところだ」

「ここなら、どれだけたくさんでも品物を隠せるね」


 でも、この暗闇のなかで悪漢たちと遭遇したら大変だ。わたしはまっすぐ走るだけでやっとだし、兄さまを危険なめにあわせたくない。


「出なおして、もっと人数をそろえたほうがいいんじゃない? 兄さま」

「ああ。そうだね。だが、待ちぶせするにしても、抜け荷の保管場所を知っておくほうがやりやすい。もう少しだけ調べてからにしよう。場所がわかれば、すぐに帰る」


 そのつもりで、わたしと兄さまは暗闇を進んでいった。矢印をたどっていけば迷わないから、それじたいは楽なものだ。


 途中、澄んだ水のウロコのように重なった泉や、小さな滝があった。何百年も前の姫君と騎士も駆け落ちするときは、ここを通ったかもしれない。こんな神秘的な空間で二人は何を語ったんだろうと思うと、ウットリ。兄さまがクスクス笑ってる。


「君が工房を追いだされたって聞いたときはすごく心配したけど、芥子乙女の生活はわりといい待遇だったんだね。変わらないでくれて安心した」

「芥子乙女の仕事は楽しかったし、お友達もいたから。イジワルな子もいたんだよ?」

「でも、君がへこたれず、純粋に育ってくれて嬉しい」


 ロマンチックな地底の宮殿を歩いてると、つい、ほんとのことをたずねてみたくなる。

 あなたは誰なの?

 ほんとはヴィヴィ兄さまじゃないんでしょ?

 でも、それを言うとこの人は行ってしまいそうな気がして、口元まであふれそうになる言葉を何度も抑えた。


 兄さまの瞳のなかにも、なんだか、ためらいがあるように見えた。笑っていても、心の底に迷いがあるような?


 何度かコウモリの襲来からわたしをかばってくれたけど、そのたびに抱きよせた肩をすぐに離してしまう。なんとなく、その仕草がわざと距離をとってるみたいに見えた。


「兄さま……あのね」


 思わず、ほんとはわたしが気づいてるって言いだしそうになったときだ。わたしたち二人しかいないはずの闇のなかで、話し声が響いた。兄さまの行動は素早い。わたしの手をひいて、サッと岩壁のくぼみにもぐりこむ。入口にバツ印のついた枝道のなかだ。


 そのすぐあと、わたしたちのあとから数人の足音が近づいてきた。兄さまは急いでロウソクの火を吹きけす。


 すると、わたしたち以外のもっと明るい光が暗闇を照らした。手に手にカンテラを持った男が一列にならんで歩いていく。先頭の男はフードつきの長いマントをかぶってるので、顔が見えない。ベルディナル子爵? なんとなく体格が違う気もした。でも、ベルディナル子爵の一味だってことは、ひとめでわかった。男たちは大きな麻袋をかかえてる。この前、ヴェネルティア神殿から盗みだされたばかりの芥子粒だろう。


 彼らはわたしたちに気づかず、目の前をよこぎっていく。よかった。見つかってたら、きっと殺されてた。


 兄さま。今日はもう帰りましょう。これ以上、ここにいるのは危ないよ。わたしたちが殺されちゃったら、父さまも助けられない。


 そう言いたいけど、洞窟のなかの声はやけに響く。現に男たちの会話も反響しつつ、ここまで届いてきた。


「ひゃー。こんな細道、両手ふさがってちゃ通れないぜ」

「すげぇ崖だな」

「こんなとこから落ちたら、ひとたまりもねぇな」


 どうやら、前方に崖があるらしい。


「おまえたち、グズグズするな。急ぐぞ」


 あれ? リーダーとおぼしき人の声が、いつものベルディナル子爵じゃない。若い男の人だ。キレイなテノールは悪人にはふさわしくない澄んだ声。


 彼らの気配がだいぶ遠ざかった。このくらい離れれば、こっちの音も光も届かないだろう。

 カチカチと音がして、ロウソクの火がつく。


「兄さま。帰ろう」


 ところが、兄さまは端麗なおもてをくもらせている。


「君はここで待て。あとをつけてみる」

「待って。兄さまが行くなら、わたしも行く。ひとりぼっちはイヤ」

「……わかった」


 兄さまの険しい表情。

 理由はなんだろう?

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