46話 いよいよ地下へ
隠し扉がそこにあるのはわかった。でも、兄さまの言うとおり、見た感じ扉はない。石壁が続いてるだけ。
「扉、あるんだよね?」
「あるはずだね」
うーん。どこに?
「何か仕掛けがあるんだ。こういうのはたいてい、近くの彫像とか、不自然な出っぱりとか」
「不自然な……」
じつは、さっきからすごく気になってた。不自然すぎるんだよね。
一番近くに立ってるヨロイ。なんで手に持ってるのが木槌なんだろう? ほかのはみんな剣なのに。それか、槍。騎士の武器として、木槌はおかしい。それもほんとの木槌じゃなくて、石膏で作られた飾りっぽい。
近づいてよく見ると、背面が壁と一体化してる。怪しい。
あちこち調べ、面頬をあげてみた。その下はふつう空洞のはずだけど、金属が詰まってて、しかも一つ目の穴がある。
「兄さま。これ! 鍵穴じゃないの?」
「さすが、直感力は優れてるね。鍵か」
「残念。鍵を持った人しか入れないんだ」
せっかく見つかった仕掛けなのに、これじゃ入れない。ガッカリしてたら、兄さまは笑って手をふところに入れた。魔法みたいに鍵が出てくる。
「それ!」
「この前、書斎であったとき、古い鍵を見つけたから型をとっておいたんだ」
「スゴイ。兄さま。天才」
鍵を一つ目につっこむと、ガチッと音がした。ギギッと目の前の壁が半回転する。その奥は闇だ。遠くに見える小さな白い光はシャーリーンが教えてくれた小窓かな。
「兄さま。これでなかへ入れるね」
「このままだと明かりがない。そのへんの燭台からロウソクをとってこよう」
壁に埋めこみの燭台があり、まだロウソクが残ってた。急いで数本とって、秘密の入口に立つ。
「階段だね」
「気をつけて」
暗闇をのぞくと、足元はすぐ階段になってた。兄さまがさきに扉をくぐり、わたしの手をとってくれる。一人なら怖かったけど、兄さまといっしょだから、別の意味でドキドキする。
二人ともなかへ入ると、扉は自然に閉まった。出るときはどうしたらいいんだろう? でも、いっか。兄さまがいるんだもん。きっと、なんとかしてくれる。
階段はそこまで長くなかった。長い廊下があって、ところどころ上部から光がさしこんでくる。シャーリーンが教えてくれたのと同じような窓がいくつかあるようだ。
「一方通行だね。これならまだ明かりはいらないだろう」
「どこにつながってるのかな?」
「ここは人工的に造られた廊下だ。そのうち天然の洞窟に出ると思う」
進んでいくと、さらに階段があった。今度は長い。
「かなり深いね。完全に暗くなる前に火を起こしておこう」
薄明かりが届くうちにと、兄さまはロウソクの一つに火をつけた。いくらなんでも種火は持ち歩けないので、火打石だ。カチカチッと何度か音がして、小さな光が闇に浮きあがる。ロウソク一本で照らせるのは、自分たちのまわりだけ。数歩さきから、じょじょに光は薄れていく。
「壁がでこぼこしてる」
「天然の洞窟に入ったんだ」
階段の両脇にあった壁がいつのまにかなくなってた。なんだか空気がひんやりする。やがて階段も終わり、床そのものが岩になった。ちょっと湿ってる。わたしが足をすべらせかけると、すかさず兄さまが片手で抱きとめてくれる。
「すべりやすいから、慎重に」
「ありがとう……」
なんだか、兄さまといると、わたしは小さな子どもに逆戻りしてしまったみたい。芥子乙女になって、なんでも自力でできるように努力してきたけど、誰かを頼ってもいい事実が、わたしを甘やかす。これに慣れちゃいけない。いけないと思うんだけど、心地よい。
「えっと、すごい複雑な洞窟みたいだね」
「ああ」
ロウソクの光で見える範囲だけでも、四方八方に枝道が伸びてる。わたし一人になったら永遠に外へ出られない! ゾッとするやつだー。
「兄さま。手、つないでもいい?」
「いいよ」
兄さまは片手にロウソク。片手にわたしの手。ごめんね。めんどうかけて。でも、子どものころの少年だった兄さまの手と同じくらい、力強くて、あったかい。
「どこから調べるの? 迷わない?」
「どうやら、その心配はないらしい。見てごらん」
兄さまが近くの岩肌を照らす。そこには白いチョークで矢印が描かれていた。
「これって、誰が?」
何百年も前の王さま? それにしては、くっきり鮮明だ。まだ描かれてからほとんど日にちがたってないような?
「先客がいるようだね。私たちの前にここに来たヤツがいる」
それって、ベルディナル子爵?




