45話 地下への入口
小窓は鉄格子で覆われ、人間にはとても通れない。でも、小さな子猫なら、そのすきまから入りこめただろう。
「ああ、シャーリーン、ここに入っちゃったんだ。けど、わたしたちじゃ使えないなぁ。この入口」
「いや、待て」
兄さまは鉄格子のすきまから、なかをのぞいてる。あんなオバケの巣窟みたいなとこ、よくまともに見れるなぁ。
と思ってたら、チョイチョイと手招きされた。
「はい。なんでしょう?」
「あそこ、見てごらん」
「オバケがいたのっ?」
「……それは、いないから、安心していい」
「よかった……」
本気でホッとするわたしを、兄さまがクスクス笑う。
「君といると退屈しないな。ほら、見て」
「あっ、むこう側から光がさしこんでる」
「あそこに何かあるんだろう。位置からいって、建物のなかのどこかだ。ここと同じ明かりとりの窓なら、もっと低い位置から光がさしてるはずだ。それに、ここからだと全体が見えないが、なんとなくあの光は四角い線みたいに見える」
「ほんとだ」
まるで、ドアの外から明るい光が照らしてるみたいに。すきまの輪郭がその光によって見えている。
「つ、つまり、あれが、ソレじゃないの?」
「おそらく。秘密の通路の入口」
「行ってみようよ」
「待った。待った。建物のなかからだと、あそこがどの場所にあたるかわかってるのかい?」
「まったく見当もつかない……」
「だと思った」
「兄さまはわかるの?」
「なんとなく、あそこかなって思う場所はあるけどね。ただ、見た感じ、それらしい扉はなかった。何かで隠されてるかもしれない」
兄さまは迷うことなく歩いていく。いいなぁ。頼れる人についてくのって。らくちん。らくちん。いつでも、おうちに帰れる安心感。
兄さまは庭をまわっていく。わたしにはどこを歩いてるんだか、さっぱりだ。でも、兄さまは自信満々で窓から建物へ入る。
「こっちだ」
「えーと、物置みたい?」
長らく使ってなさそうな部屋。姫さまやマーガレットさまのソレにくらべると、ふんいきからして違う。言いかた悪いけど、ボロい。
「このへんはね。屋敷の人たちが旧館と呼んでるあたりだ。何代も前の伯爵のときに建てられたあと、今はほとんど使われてない」
「こんなところがあったんだ」
「前々から秘密の出入り口があるとしたら、ここが怪しいとは思ってたんだ。しかし、かなりの広さがあって、なかなか見つけられなかった」
物置みたいなところから扉を出ると廊下。たしかに、すごく広い。これが使われてないなんて、もったいないなぁ。工房のアトリエに充分な広さだ。
「さっきの光の位置から考えると、ここらに出入り口があるはずだ。少なくとも、暗闇に四角い光輪を形作る何かがある」
ドキドキするなぁ。兄さまといると、いつだってドキドキだけど、今はそこに冒険のドキドキまでくわわった。何百年も前の秘密の扉を、もしかしたら、わたしたちが見つけてしまうんじゃ?
「どうやって探すの?」
「こうしよう」
長い廊下。両側は石の壁。等間隔に柱があって、古い騎士のヨロイが置かれてる。
兄さまはふところから一巻きの羊皮紙をとりだした。ひろげると地図が描かれていた。フィーリオさんが話してた古地図だ。
「これは写しだけどね」
「そうなんだ」
うーん。フィーリオさんばかりか、兄さまもわたしの考えを見ぬいてしまう……。
「サリー。チョークか鉛筆持ってないかな?」
「あるよ」
絵師の鑑。鉛筆とスケッチブックはいつも持ち歩いてるもんね。
鉛筆を渡すと、兄さまはそれを使って、古地図の上に一本の線を描いた。すると、線の端の片方がちょうどこの廊下のまんなかあたりに来る。
「えっと、これ、どういうこと?」
「ここが線の起点。これはさっき、光が見えた半地下の小窓があった場所だ。そこから光がさしていた方角にむかって線をひけば、隠し扉の位置がわかる」
「そっか!」
方向に関することは、ほんと苦手だなぁ。光が見えた方角がわかるなんて、それだけで天才ですかって思う。
「じゃあ、この線が壁にぶつかってるとこに秘密通路の入口があるの?」
「そうなるね」
兄さまはコツコツと靴音を鳴らし、廊下を歩いていく。そして、中央付近で止まると、壁をたたいた。
「間違いないな。このむこうに空洞がある」
やったー! 隠し扉発見だ。




