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魔法絵師のミーラークルム  作者: 涼森巳王(東堂薫)
九章 大秘密通路

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45話 地下への入口



 小窓は鉄格子で覆われ、人間にはとても通れない。でも、小さな子猫なら、そのすきまから入りこめただろう。


「ああ、シャーリーン、ここに入っちゃったんだ。けど、わたしたちじゃ使えないなぁ。この入口」

「いや、待て」


 兄さまは鉄格子のすきまから、なかをのぞいてる。あんなオバケの巣窟そうくつみたいなとこ、よくまともに見れるなぁ。


 と思ってたら、チョイチョイと手招きされた。


「はい。なんでしょう?」

「あそこ、見てごらん」

「オバケがいたのっ?」

「……それは、いないから、安心していい」

「よかった……」


 本気でホッとするわたしを、兄さまがクスクス笑う。


「君といると退屈しないな。ほら、見て」

「あっ、むこう側から光がさしこんでる」

「あそこに何かあるんだろう。位置からいって、建物のなかのどこかだ。ここと同じ明かりとりの窓なら、もっと低い位置から光がさしてるはずだ。それに、ここからだと全体が見えないが、なんとなくあの光は四角い線みたいに見える」

「ほんとだ」


 まるで、ドアの外から明るい光が照らしてるみたいに。すきまの輪郭がその光によって見えている。


「つ、つまり、あれが、ソレじゃないの?」

「おそらく。秘密の通路の入口」

「行ってみようよ」

「待った。待った。建物のなかからだと、あそこがどの場所にあたるかわかってるのかい?」

「まったく見当もつかない……」

「だと思った」

「兄さまはわかるの?」

「なんとなく、あそこかなって思う場所はあるけどね。ただ、見た感じ、それらしい扉はなかった。何かで隠されてるかもしれない」


 兄さまは迷うことなく歩いていく。いいなぁ。頼れる人についてくのって。らくちん。らくちん。いつでも、おうちに帰れる安心感。


 兄さまは庭をまわっていく。わたしにはどこを歩いてるんだか、さっぱりだ。でも、兄さまは自信満々で窓から建物へ入る。


「こっちだ」

「えーと、物置みたい?」


 長らく使ってなさそうな部屋。姫さまやマーガレットさまのソレにくらべると、ふんいきからして違う。言いかた悪いけど、ボロい。


「このへんはね。屋敷の人たちが旧館と呼んでるあたりだ。何代も前の伯爵のときに建てられたあと、今はほとんど使われてない」

「こんなところがあったんだ」

「前々から秘密の出入り口があるとしたら、ここが怪しいとは思ってたんだ。しかし、かなりの広さがあって、なかなか見つけられなかった」


 物置みたいなところから扉を出ると廊下。たしかに、すごく広い。これが使われてないなんて、もったいないなぁ。工房のアトリエに充分な広さだ。


「さっきの光の位置から考えると、ここらに出入り口があるはずだ。少なくとも、暗闇に四角い光輪を形作る何かがある」


 ドキドキするなぁ。兄さまといると、いつだってドキドキだけど、今はそこに冒険のドキドキまでくわわった。何百年も前の秘密の扉を、もしかしたら、わたしたちが見つけてしまうんじゃ?


「どうやって探すの?」

「こうしよう」


 長い廊下。両側は石の壁。等間隔に柱があって、古い騎士のヨロイが置かれてる。


 兄さまはふところから一巻きの羊皮紙をとりだした。ひろげると地図が描かれていた。フィーリオさんが話してた古地図だ。


「これは写しだけどね」

「そうなんだ」


 うーん。フィーリオさんばかりか、兄さまもわたしの考えを見ぬいてしまう……。


「サリー。チョークか鉛筆持ってないかな?」

「あるよ」


 絵師の鑑。鉛筆とスケッチブックはいつも持ち歩いてるもんね。


 鉛筆を渡すと、兄さまはそれを使って、古地図の上に一本の線を描いた。すると、線の端の片方がちょうどこの廊下のまんなかあたりに来る。


「えっと、これ、どういうこと?」

「ここが線の起点。これはさっき、光が見えた半地下の小窓があった場所だ。そこから光がさしていた方角にむかって線をひけば、隠し扉の位置がわかる」

「そっか!」


 方向に関することは、ほんと苦手だなぁ。光が見えた方角がわかるなんて、それだけで天才ですかって思う。


「じゃあ、この線が壁にぶつかってるとこに秘密通路の入口があるの?」

「そうなるね」


 兄さまはコツコツと靴音を鳴らし、廊下を歩いていく。そして、中央付近で止まると、壁をたたいた。


「間違いないな。このむこうに空洞がある」


 やったー! 隠し扉発見だ。

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