44話 シャーリーンのメッセージ
兄さまじゃないのに、どうして兄さまのふりをしてるの?
ガルシニエさんの知りあいだっていうし、何より、フィー兄さまと子どものころによく会ってたのは事実だ。それはわたしの記憶にもある。だから、双子のこの人だって、悪い人じゃない。父さまのこと、本気で心配して探そうとしてくれてるのはまちがいない。
わたしをだまそうとしてるわけじゃないんだ。きっと、何か言うに言われぬ事情がある。信じよう。いつか、ほんとのことを話してくれるまで。
「……兄さま。約束してね。絶対、ムチャしないでね。もう二度と、わたしをひとりぼっちにしないで」
「約束する」
それで機嫌をなおして、事件のお話だ。父さまを一日でも早く助けないと。
「兄さまとガルシニエさんは、なんで父さまが生きてると思うの? つれだされたあと、殺されてはないよね?」
兄さま(ほんとの名前わかんないし)とガルシニエさんは目を見かわした。
「最初は私たちも敵の目的がわからなかった。でも、今なら推察できる。大量のマジックポピーを持っていて、それをオイルにする方法があれば、あと必要なのはなんだ?」
ドキリとした。それで何もかも腑に落ちる。
「魔法画家……?」
「そう。それもマウリオ叔父さんなら、魔法画家のなかでも一流中の一流だ。ひそかに魔法絵を描かされているに違いない」
「なんのために?」
「それはまだわからない。でも、よくない目的のためだろうという推測はつく」
そうだよね。おおっぴらにはできない目的があって、父さまの力を悪用してるんだ。魔法絵でできる悪いことってなんだろう? よくわかんないけど、とにかく、早く助けないと。
「父さまがどこに捕まってるかわかる?」
「それはまだ。でも、アダマンテ付近が怪しい」
「アダマンテ……」
この前、二階でガルシニエさんと兄さまが話してた。外国の都市だなっていうのはわかったんだけど。
「どこの国だっけ?」
「隣国だよ」
マジックポピーを横流しされてるのも隣国。そうだ。アダマンテはそこの王都だ。これは怪しい。
「わたし、行ってみる!」
あわてて兄さまがわたしの手をつかむ。
「君は夢中になると暴走するな。昔からだ」
「だって——」
「アダマンテと言っても広い。そのどこにいるのか見当をつけてからじゃないと」
「そうだけど……」
「ベルディナルの悪事の証拠、または現場を押さえて、マウリオ叔父さんの居所を吐かせるつもりだ。そのためにも、ジルブラン家の秘密の出入り口を知りたい」
あ、そうだった。
「わたし、もしかしてだけど、心当たりがあるの」
前に魔法絵の奇跡が起きたときに見せたシャーリーンの行動。あれが本体のいなくなったときの再現だとしたら。子猫だけが入りこめるすきまがあって、秘密の通路に迷いこんじゃったんじゃないだろうか?
その疑問を兄さまになげかけてみた。
「それは考えられなくはないね」
「ララベラさまのお部屋から下をのぞいたら、カリカリしてた。だから、姫さまの部屋が見えるお庭まで行けば、何か見つかるかも」
「行ってみよう」
というわけで、再度、ジルブラン伯爵家だ。今回はコッソリと。兄さまは伯爵家の裏木戸の鍵を持ってた。たぶん、フィーリオさんが用意して渡したんだろう。
「このへんが姫さまのお部屋の下かな?」
「……まだ反対側だ。庭木づたいに隠れていかないと」
「えっ? 違うの?」
「そういえば、サリーは方向音痴だったね」
うっ。そういうのは忘れてほしいんだけど。わたしって、子どものころから、こうなんだ?
でも、今回は兄さまがいるから迷わなくてすんだ。わたし一人なら、絶対たどりつけなかった。
「さあ、ここからなら姫君の部屋が見える。シャーリーンの幻が走っていったのはどこ?」
「壁にむかってカリカリしてたから。えっと……窓からのぞいたとき右側だったから、ここからだと……」
「左手のほうか」
姫さまの部屋の窓をのぞくけど、人影は見えない。ほかの部屋の窓にも人間がいるようすはない。貴族のお屋敷って、ほんとムダに広いなぁ。侵入者には助かるんだけど。
「このへんだ。茂みのすぐそばだった」
豪勢な建物のほぼ端っこだ。半地下になった小窓がある。




