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魔法絵師のミーラークルム  作者: 涼森巳王(東堂薫)
八章 あの日、ほんとは誰だったのか?

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43話 この人は……



「そういえば、前に書斎でヴィヴィ兄さまと出会ったとき、あとから誰か入ってきたんだよね。伯爵じゃないみたいだったし、ようすが変だった。その人もコッソリ入ってきてたみたい」


 フィーリオさんは難しい顔つきになった。


「ベルディナル子爵の手下がこの館にいるのでしょうね。彼らもその通路を利用しているか。あるいは出入りには別の場所を使っているものの、私たちのような部外者が立ち入らないよう、すべての出入り口を押さえておきたいというところか」


 さすが、ヴィヴィ兄さまの兄さまだ。頭いい。巻き毛の銀髪も素敵。あっ、それとこれとは関係ないか。でも、わたしはヴィヴィ兄さまのほうが好きなんだからね。乙女の一途をなめちゃダメ。


「ベルディナル子爵、意外とやること早いんですね」

「あいつは油断ならない。ただ、あいつの上には、さらに誰かいるだろうがね」

「そうなんだ」

「きっと、ほかにも大勢、手下がいる」

「ヴェネルティア神殿のザナヴィエさんも怪しいです。子爵の抜け荷に協力してるのかも」

「なるほど。相手が女性なら、口を割らせるのはたやすい。私に任せてください」

「それって……?」


 フィーリオさんは笑って話をそらした。


「さて、姫さまがアクビをしてる。そろそろお茶会に戻りましょうか?」


 やっぱり、わたしはヴィヴィ兄さま一筋だ。フィーリオさんもすごく魅力的だよ? 魅力的だけどね。なんとなく恋人には不向きの気がする。乙女の本能。


 わたしたちはそのあと、姫さまとお茶会を楽しんだ。わたしが描いたシャーリーンの絵が高価な金縁の額に入れられて、暖炉の上に飾られていた。それを見て、急に思いだした。


 そうだ。シャーリーンの絵の奇跡が起こった日。最後のほう。なんとなく変だった。いくら魔法だからって、子猫が窓からとびだして。まるで、いなくなったときを再現してるみたいな……?


「ねぇ、フィーリオさん」


 わたしはとなりの席にすわるフィーリオさんの耳に両手をあてて耳打ちした。


「もしかしたら、秘密の入口、わかるかもしれない」

「ほんとですか?」

「このあと、コッソリ出られない?」

「今はムリだ。あとでヴィヴィに君を迎えに行かせましょう。店で待っていて」


 そういう話で、いったん、伯爵家をあとにした。今か今かと待ってると、一刻ほどして、兄さまがやってきた。お店の扉をあけて、ちゃんと正面から入ってくる。


「今日は表口からなんだ。兄さま。たまに裏口から来てるでしょ?」


 兄さまは肩をすくめた。


「君が工房からいなくなって、ヴェネルティア神殿の芥子乙女になったと知ってから、ずっと見守ってたんだ。だから、神殿を追放された日、君のあとを追っていた。ガルシニエさんは同志だよ。マウリオさんの古くからの友人だ」


 すると、奥から足音がして、ガルシニエさんが顔を出した。


「すまんね。サリエラ。君を雇ったのは彼の推薦なんだ。魔法絵師の才能があるから住みこみで使ってほしいと、気絶した君を彼がつれてきた。マウリオの娘さんなら、もちろん、私には異存はなかったがね」

「そうだったんですか」


 やっぱり、あの夜、私を助けてくれたのは兄さまだったんだ。でも、なら、なんで、知らないふりして行ってしまったの? 途中で老人の変装までしてたよね?


「わたしがここにいるって知ってたなら、もっと会いにきてくれたってよかったのに。毎日だってよかったのに」


 あ、涙があふれちゃう。くそぉ。止まらないや。やんなるな。わたしがすごいワガママ娘みたいじゃない。


「君をまきこみたくなかったんだ。工房の乗っ取りのことも、マウリオ叔父さんのことも、ベルディナルたちの陰謀も、私とフィーリオで片づけようと思っていた」

「わかってる。わかってる、けど……」

「泣かないでくれ。君に泣かれると胸が痛い」


 兄さまを見つめていると、子どものころの記憶が意味もなくゴチャゴチャと浮かんだ。思い出のなかの兄さまには、やっぱり泣きぼくろがある。小さくて、ほとんど目立たないけど。


 でも、目の前のこの人にはない。


「兄さま。泣きぼくろは?」

「えっ? ああ……大人になったら消えたんだよ。だんだん薄くなって」

「……」


 でも、瞳の色は変わらないはず。兄さまはたしかにブルーだった。でも、この人はグリーンだ。

 兄さまじゃ……ない。たぶん、違う人?

 だけど、何度も助けてくれたのはこの人だ。

 わたしが好きなのは子どものときから憧れてた兄さま? それとも、今、目の前にいる人? どっちなんだろう?


 胸のなかでユラユラ、ユラユラ、風見鶏がゆれてるみたい。自分の心がわからない。

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