42話 街の下に
これはショックだ。
ララベラ姫さまと仲よくなったし、アンディラさまの結婚もうまくいってほしいし、ジルブラン家には肩入れしてたのに。何かしらの陰謀にこの家が加担してる?
フィーリオさんはチラリと室内を流し見て、まだ姫さまがニヤニヤ笑ってるのを確認すると、小声でささやいた。どうでもいいけど、この人、大人の色気がある……兄さまより?
「ジルブラン家じたいはおそらく、誰も関与していませんよ。ただね。古地図を見ると、この家には一つのきわめてめずらしい特色があるのです」
「古地図? 特色?」
「おかしいとは思いませんでしたか? ヴェネルティア神殿から不正に持ちだされた品物が、どこで保管されているのか。密輸出するにも天候だとか、相手との約束の日取りだとかあるはず。一時的にはどこかへ置いておかなければならない」
「でも、貴族のお屋敷なら、地下室や屋根裏や、人目につかない場所はいくらでもあるんじゃ?」
「貴族の屋敷には大勢の召使いがいる。完全に人目につかない場所なんてないんですよ」
「うーん」
ごもっともだ。となると、どこへ?
「そこで、古地図です。この街は石灰岩の上に築かれている。石灰岩の性質をご存じですか?」
「えっと、チョークの材料?」
「それは石膏です。石灰岩はやわらかく、雨に溶けるんですよ。だから、この街の下は穴だらけなんです」
「穴? ほんと?」
「地下洞窟です」
あ、それは子どものころ、父さまから聞いたかも? この街には洞窟がたくさんあって、古い家なんかはそれを物置がわりにしてるとか。うちの工房の地下にも貯蔵庫あったけど、あれはもともと天然の洞窟だ。
「そっか。洞窟か。そこに隠してるんだね」
「それだけじゃありません。古地図によれば、街の地下にある鍾乳洞はかなりの範囲におよび、古にはそれを利用した秘密通路がもうけられていたのです」
秘密通路! なんか、スゴイ。やだ。ロマンチックぅー。きっと貴族のお姫さまと騎士が駆け落ちするのに使ったんだぁ。
「駆け落ちに《《も》》使われたかもしれませんね。ですが、もっと現実的に言えば、戦の折、王家の人々が万一のとき、逃げ道に使ったようです」
……やだ。なんで、わたしの考えわかったんだろ? フィーリオさんって魔法使い?
「魔法使いじゃなくても、君の考えてることなんてわかりますよ。その点は昔とまるで変わってない。夢見がちで妄想癖のお姫さま」
あれ? 優しい感じでニコリとされると、ドキリとする。困るなぁ。兄さまと同じ顔だからって。
それだけでもないんだけど。ドキリとしたのは、嬉しかったからだ。フィーリオさんって、ちょっと本心がわからないとこあるけど、その笑顔には本物の愛情がこもっていた。わたしは小さかったからちょっとしか覚えてないけど、きっと、昔、ほんとに妹みたいに可愛がってくれてたんだ。そう思うと、とても嬉しかった。兄さまにフィーリオさん。わたしにもまだ大切な人たちが残ってたんだって。
「え、えっと……それで、その洞窟がなんなんですか? 王さまたちがナイショで使ってたからって、このジルブラン家とは関係ないよ」
「古地図によれば、秘密の通路は洞窟を利用して、街のあちこちに通じていた。そのうちの一つの出口が、この伯爵家のどこかにある。私はそれを探しているんだ」
納得。たしかに、その通路をベルディナル子爵たちが悪用してるなら、盗まれた品物の保管場所をつきとめられる。なんなら、そこに見張りを立てておけば、子爵たちをその場で捕まえることだってできるんだ。山中ではずっと見張りを置けないし、一網打尽にするなら、こっちのほうがいい。
「そのこと、ジルブラン伯爵は知ってるの?」
「いや、伯爵家の人たちは誰も知らない。秘密の通路で使う鍵らしきものは見つけたが。通路が使用されてたのは、もう何百年も前だからね」
「王家の秘密通路ってことは、王宮に出入り口があるんじゃ?」
「どうやって宮殿に入るの? ちょっと忍びこんでってわけにはいかないでしょう?」
「たしかに」
「ほかの場所も探してみたが、道が崩落して進めなくなっていた。望みをたくせるのは、あとはこのジルブラン伯爵家の出入り口だけなんだ」
「じゃあ、絶対、見つけないと」
「そう」
うーん。秘密の通路。隠された扉があるとか、そういうことだよね?




