41話 フィーリオとの話
翌日。わたしはジルブラン家へ行った。
早く兄さまに会って、あのあとのことを伝えなくちゃ。わたし一人じゃどうしたらいいかわかんないし。
だけど、兄さまには会えなかった。この前もたまたまだったもんね。フィーリオさんはいたけど。
「フィーリオさんはなんで侍従してるんですか?」
伯爵家はちょうどお茶の時間。アンディラさまは父上のお供で今日は宮廷に行ってるので、室内には姫さまとわたし、フィーリオさんと姫さまの侍女が一人だ。
「なぜって?」
「えっと……」
姫さまたちの前じゃ話せないなぁ。なんとか二人になりたい。
すると、まだ小さいのに、姫さまが《《おしゃま》》な顔をして笑う。
「ふふふ。サリー、フィーリオのこと好きなんでしょ?」
なんて耳打ちされて、赤面しそうな思いだ。もしかしたら、赤くはなってたかも。
「そ、そんなんじゃありませんよ?」
「いいのよ。フィーリオは美人だもんね。わたしも気になってたけど、ゆずってあげる。二人で話してきていいよ」
なんという気のきくお姫さまだろうか? ちょっと勘違いだけど、今はありがたい。
ニヤニヤ笑う姫さまに見送られて、フィーリオさんと二人でベランダへ出る。
「姫さま、絶対に勘違いされてますね。いいのですか?」と、フィーリオさんまで笑ってる。
「い、いいんです。二人きりで話したかったのはほんとだし」
「へぇ。レ……ヴィヴィがへこむんじゃないかな?」
そう言って、この前みたいにわたしの手をとると接吻した。フィーリオさんって顔立ちはヴィヴィエラ兄さまにそっくりだけど、性格はだいぶ違うみたい。もしかして、そうかもとは思ったけど、けっこうな八方美人では? というか、女の人に手が早い?
まあ、これだけ超絶美形なら、さぞやモテモテなんでしょうね。
なんだろう? 兄さまなわけじゃないのにムカムカする。兄さまと同じ顔だからかな。兄さまが浮気性みたいでヤな気持ちになるのかも。
「フィーリオさんがヴィヴィエラ兄さまと兄弟だって、ほんとなの?」
「じゃないと、こんなに似てないですよ」
「血のつながりは感じるよね」
「双子なんだ。私が兄。あいつは弟」
「ふ、双子?」
ヴィヴィ兄さまって双子……だったっけ? えーと、必死に子どものころを思いだしてみる。わたし、そういえば、兄さまの母さまって見たことない。父さまには一回だけ会ったような? たしか、わたしの母さまと兄さまの母さまが姉妹なんだよね。
わたしの母さまが芥子乙女だったってことは、もしかしたら、兄さまの母さまも芥子乙女だったのかも?
わたしみたいに工房の娘だったのかな? まさか、エメベラさま派? 貴族の娘じゃないよね? だって、それなら、わたしの母さまと父さまが結婚できるわけないし。平民は貴族と婚姻できないんだよ。もしも愛しあってしまったら、駆け落ちかな?
「……」
「どうしたの? おチビさん。聞きたいことがあるんでしょう?」
「おチビさんじゃありません。わたし、もう成人しました」
「十五歳ですよね? けがれなき乙女ですよ」
なんかバカにされてるような気がするなぁ。
「どうせ、フィーリオさんが好きな大人の女性じゃありませんよぉ」
胸は平たい……かも。エメベラさまなんてスタイルもすごくよくて、一人前の淑女って感じだけど。わたしだって去年よりは大きくなってるんだから。来年はもっと……きっと……。
「そんなことより、フィーリオさんはなんでアンディラさまの侍従なんてしてるの? だって、ヴィヴィ兄さまは父さまの行方を追うためにいろいろ調べてるんでしょ? だったら、ジルブラン伯爵もそれに関係してるの?」
フィーリオさんは感心したような顔になった。
「いつまでも僕らの可愛い妹ではないんですね。聡明になったものだ」
僕らの妹? それって、フィーリオさんがわたしの小さいころを知ってるってこと? えっ? 覚えがない……わけでもない?
もう一度、必死に幼時の記憶を呼び覚ましてみる。思いだせ。思いだせ。わたし。さっきから、何かひっかかってるんだけど? ほら、なんか、わたしが兄さまと遊んでるとき、いつもそばに誰かいたような? そう。兄さまの友達? ときどき、うちに泊まりに来てた。そうだ! 思いだした!
「馬車! いつも、すごい豪華な馬車に乗ってきた! フィー兄さまだ!」
「あれ? 思いだしましたか」
ああ、なんか、それについてもっと思いだしそうなんだけど、今はそれどころじゃない。
「じゃあ、やっぱり、フィー兄さまはジルブラン伯爵家をさぐるために侍従のふりしてるの?」
「まあ、そういうことですね」
やっぱり!




