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魔法絵師のミーラークルム  作者: 涼森巳王(東堂薫)
八章 あの日、ほんとは誰だったのか?

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40話 エムラの証言



「それって、わたしが男の人と密会したって冤罪をかけられた日のこと?」


 エムラはうなずいた。


「あのとき、畑に行く前、わたしたち出会ったよね?」


 そういえば、そうだった。わたしが男の人影を見たあと畑にむかう途中、エムラに会った。わたしと同じものを見てたとしても不思議はないのだ。


「そうか! あの人影をエムラも見たんだね」

「だから、エメベラさまが、あれはサリエラだって言いだしたとき、ほんとにそうかもって思ってしまったの。人影と別れた直後に、わたしと出会ったんだろうって」

「違う。わたしじゃないよ」

「うん。よく考えたら、あれはサリエラじゃない。わたしたちって、みんな髪を長く伸ばして、おさげにするのが決まりでしょ?」


 芥子乙女の髪型や服装は厳密に決まってる。わたしなんか、ついつい今でもおさげにしてるんだけど。さすがに髪は長すぎてジャマだから、ちょっと切ったよ。


「あのとき見えた女の子の髪は、わたしたちより短かった気がするのよね。たぶん、神殿に来たのが、少しあとだったからだ」

「ああ、そうかも」


 たしかに、じゃっかん短かった。芥子乙女の髪は自分で切っちゃいけない。だから、入った年がいっしょなら、みんな同じ長さだ。短いのは入ってきて、そこまで年数がたってないってこと。


「でも、エメベラはわたしの髪の色だったって言ったんだよね。ピンク色に見えたって」

「わたし思ったんだけど、あのとき、まだ朝日がさしてたでしょ? 金髪か銀髪の人なら、朝日を浴びて髪が赤みがかって見えるんじゃない?」

「それだ!」


 たしかに、あの日の朝焼けはいつもよりあざやかだった。マジックポピーの白い花がピンク色に染まって見えた。じゃあ、わたしを見たっていうエメベラさまの証言も嘘じゃないんだ。彼女にはほんとにわたしの髪の色に見えていた。


 だとしたら、朝日の映えやすい淡い色の髪の人。プラチナブロンド。わが国ではプラチナブロンドは少ない。もっと北の国の人たちに多い特徴だ。芥子乙女のなかで、ゆいいつのプラチナブロンドはヨルヴァだ。


「そういえば、最近、いつ来てもヨルヴァに会わないね」

「ヨルヴァなら実家に帰ったよ」

「えっ? いつ?」

「えーと、一ヶ月半前かな」


 わたしがここを出てから約一ヶ月後ってことか。


「いったい、どうして?」

「わたしもくわしくは聞いてないけど、実家で仕事を手伝うことになったらしいよ」

「ふうん」

「ヨルヴァの家ってなんの商売だっけ? たしか国境に近いあたりの出身だよね。峠の宿屋さんだったりして」

「峠の……」


 なんだか急に核心に近づいてきたみたい。背中がゾクゾクする。


「サリエラ。わたし、神殿長に話してみるよ。あの日、わたしが見たのはサリエラじゃなかったって。もしかしたら、ヨルヴァだったんじゃないかって」

「やっぱり……そうだよね?」

「だって、サリエラが追いだされたあと、すぐ辞めちゃうなんて、ぐうぜんにしてもおかしくない? 髪の色から言っても、ほんとはヨルヴァがそうだったんじゃ? だから責任を感じて辞めたんじゃないかな」

「うん……」


 わたしの考えは少し違ってる。わたしに悪いと思って辞めたのなら、まだいい。もし、そうじゃなかったら? ほかに事情があったなら?


 ずっと不思議だった。

 マジックポピーの実をどれだけ大量に密輸したとしても、それを育てたり、オイルにできる人がいなかったら、なんの役にも立たないって。

 だけど、もしその国にも芥子乙女がいたら——


 あれ? ヨルヴァってお姉さんもいるって言ってなかったっけ? ヨルヴァと入れかわるように神殿を辞めたお姉さん。だとすると、少なくとも二人はマジックオイルを精製できる人が国境付近にいる。


 国境《《付近》》じゃないのかも? 国境のむこうがわだとしても、わたしたちにはたしかめようがない。神殿長だって、そこまで出身地を精査して入れてるわけじゃないだろう。現地まで行って近所の人に確認とるとか。


「ねぇ、エムラ。その話、まだ誰にもしないでね」

「なんで? 神殿長には?」

「もっと証拠が集まってからのほうがいいと思うんだ。へたにさわいで大事になったら困るから」


 ベルディナル子爵の味方が、この神殿のなかにどれくらいいるか、まだわからない。ザナヴィエさんだけならいいけど、もっと大勢いたら、へたしたらエムラの身が危ない。

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