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魔法絵師のミーラークルム  作者: 涼森巳王(東堂薫)
七章 神殿長の秘密

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36話 神殿長の秘密



 とにかく、こうしてる場合じゃない。わたしも出ていかないと。今度こそ神殿長が帰ってきてしまう。


 立ちあがると、卓上にひらいたままなのは、さっきまでわたしが見てた芥子粒を管理する帳簿だった。まだインクのかわかない文字がある。一番下段の一列。さっきまでなかったものだ。麻袋大八が売れたことになってる。


 変だなぁ。午前中に売れた芥子粒の数なんだろうか? でもそれなら、何もコッソリじゃなくても、ふつうに神殿長に報告すればいいだけのことじゃない?


 うーん。もしかして、エメベラが抜け荷に加担してる? なんの苦労もないお姫さまが?


 変な気はしたけど、早く部屋をぬけだそうと扉へと歩く。ドアをほんの少しあけて外をうかがう。あっ、いけない。神殿長がこっちにむかってくる。どうしよう。このままじゃ真正面から鉢合わせだ。


 しょうがなく、わたしはあとずさる。そうだ。デスクの下は見つかりやすい。それより、となりの寝室へ行けば、仕事が終わるまで神殿長は入ってこない。二つの部屋はあいだのドアでつながってるから。


 そう思い、あいだのドアをあけた。その瞬間、寝室側の廊下に面した扉がほぼ同時にひらいた。神殿長だ。もうダメだ。見つかった。なんで寝室に入ってくるの? 仕事するんじゃないの?


 でも、なぜか硬直するわたしのほうは見もしないで、神殿長はベッドへむかっていく。足どりもヨロヨロして体調がよくないみたいだ。


 奇跡。奇跡だ。まだ見つかってない!

 そぉっと、そぉっと、あいだのドアを閉める。

 最後のすきまから見た感じじゃ、神殿長はそのまま寝入ってしまったみたいだ。もしかして、病気なのかな? それもあのようすだと、だいぶ悪いみたい?


 なんか、心配。ホムルニエ神殿長。わたしを追いだした人ではあるけど、まがったことをする人じゃなかった。ちょっと厳しいとこはあったものの、正しい行いをしてれば寛容だった。貴族のエメベラも、わたしみたいな孤児にも公正で、決して差別なんてしなかった。


 やっぱり変だ。あの神殿長が抜け荷だの密売だのに手を貸すわけがない。じゃあ、誰がそんなことを? エメベラさま?


 考えるのはあとだ。気づかれてないうちに逃げないと。職務室側から廊下へ出る。扉を閉めたとたん、遠くに人影を認めた。あわてて、柱のかげに入る。髪を完全に隠したあの服装は巫女だ。


 芥子乙女の服は白だけど、巫女には二種類。白い巫女服は芥子乙女と同じ仕事をする人。つまり、マジックポピーを育てたり、マジックオイルを作る。巫女全体ではすごく少ない。大人になっても澄んだマジックオイルを作れる人はとても希少なんだとか。


 紺色の巫女服は神殿の雑用をする係。掃除や料理、野菜を育てる畑の手入れ。つまり、芥子乙女のお世話係だ。廊下を歩いてくるのは紺色の巫女服を着た人だった。ただ、紺の巫女のなかでは上位の証に、銀色の護符を首にさげてる。


 あ、よく見たら、ザナヴィエさんだ。紺の巫女の最上位。神殿長にとても信頼されてる。


 柱のかげから見てると、ザナヴィエさんはそのまま神殿長の職務室へ入っていった。数分待っても出てこない。いくら神殿長が寝てるからって、こんなに堂々と入っていくのはおかしくない?


 気になる。今日はいろいろ気になることがありすぎる。チョロンと職務室の前まで戻った。ドアをあけたら気づかれるだろうから、鍵穴からのぞいてみる。ザナヴィエさんはあたりまえの顔して、神殿長のデスクにすわっていた。羽ペンを手に帳簿をつけている。


 もしかして、神殿長って、芥子乙女の前では健康なふりしてたけど、もうずっと、ぐあいが悪かったんじゃ? それで、ザナヴィエさんに仕事を任せてる……とか?


 だとしたら、横流ししてるのはザナヴィエさんかもしれない。エメベラの可能性もすてきれないけど。でも、年若い乙女が密売人とつながる道筋がサッパリ見えてこないんだよね。


 あの神殿長が不正を働くなんて、おかしいと思った。きっと、ザナヴィエさんが神殿長から職務を任されたのをいいことに、好き勝手してるんじゃ?

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