34話 妖精っているのかな?
古い家には妖精が住みついて、靴を作ったり、麦の穂を摘んだり、仕事の手伝いをしてくれるとか。でも、とても恥ずかしがり屋で人前には出てこないはずなんだけどな。
気になったので、そっと扉をひらいてみた。この部屋は階段部分にまわりこんでるから、奥のほうが直角にまがってる。そのあたりにガルシニエさんが立っていた。もう一人、誰かいるみたいだけど、戸口からは見えない。ちょうど、まがり部分にいるのだ。それとも、ま、まさか、ほんとに妖精? まあ、亡霊よりは妖精がいい。
「……で、足どりはつかめたのかね?」
「いえ。まだ。アダマンテまではわかっているんですが、そのさきが……」
「困ったものだ。定期連絡がとだえたとなると……」
「ベルディナルの仕業に間違いありません」
ん? ベルディナル? つい最近、聞いた名前。えっと、そう。アマベラちゃんのお母さんから聞いたんだっけ。あの怪しい密売男だ。
アダマンテっていうのは、どっか他国の街だったような……?
というか、この声。
もしかして、兄さまなんじゃないの? 声ひそめてるから、ちょっと自信ないけど。会いたい、会いたいと思うあまり、誰の声でも兄さまに聞こえるんだろうか?
ここはもう、なかへ入ってみるしかない。兄さま、会いたい。
思いきって、ドアをあけた。
「ガルシニエさん!」
すると、何やらあわてふためいたようすでバタバタと音がして、わたしが入っていったときには、なぜか室内にはガルシニエさん一人だった。もう一人の声の主はどこへ行ったんだろう? やっぱり妖精だったんだろうか?
「今、ここで誰かと話してませんでしたか?」
「いや。ひとりごとを言ってしまったかもしれんね。考えごとをするとき、よくするのだよ」
「……」
言いわけがましい。何か隠してる。ほんとは誰かと話してたんだ。でも、だとすると、その人はどこへ消えたのか? 出入り口はわたしが入ってきたドアだけなんだけどな。窓はあるけど、そのむこうはとなりの家の屋根だ。
おかしい。なんかある。
「ところで、何か用かね?」
「あ、はい。ヴェネルティア神殿へ芥子粒を買いにいきますので、店番をかわってもらおうと思いまして」
「なるほど。新しい実ができるころだね。それなら、私がお代を出すから多めに仕入れておいてくれないかね? 新鮮で品質のいいものが手に入るのは今だけだ」
「わかりました」
「下で待っていてくれ。お金を用意するからね」
「はい」
つかのま待ってみたけど、わたしがおりないとガルシニエさんは動かないみたいだ。しょうがなく退室することにした。
そのとき、あきらめ悪く、きびすを返すと見せかけて、ちょっと体をひねって窓の外をのぞく。気づいたんだけど、となりの屋根とのあいだに石塀がある。あの上を歩いていけば、裏通りへおりていけるんじゃ? 背の高い機敏な男の人なら、ここから出入りできそう。さっきまでいた人も、きっとこの窓から出ていったに違いない。
もしかして、ガルシニエさんが二階に何度もあがってるのは、そのため? ここに来る誰かとナイショの話をしてる? そして、その誰かは兄さまかもしれない!
確認しにジルブラン伯爵家に行きたいなぁ。フィーリオに会って、この前できなかった話を聞きたい。決めた。明日はジルブラン伯爵家へ行こう。今日は神殿へ行かなきゃね。
「サリエラ。これが代金だ。好きなだけ使っていいから、質のいい実を選んできておくれ」
「わっ、こんなにたくさん」
銀貨だけじゃない。金貨も入った財布をあずかって、ヴェネルティア神殿へむかった。大金持ってると思うと緊張するなぁ。
いつものように乗合馬車で神殿前まで。そこから、長い長い畑のあいだを通って神殿へ。早朝じゃないので、参拝客は少ない。
今からだと、売り子の芥子乙女もちょうどお昼ご飯に入っちゃうかも。あっ、しまった。そんなこと考えたらお腹へってきた。せっかくマクシミリアンさんが作り置きしてくれたベーコンサンドがあったのに。食べてから来たらよかった。
神殿のなかへ入ると、今日の売り子はよりによってエメベラさま。ならびに、そのとりまきたち。しまった。これじゃ、芥子粒は買えない。昼からきっと交代するから、それまで待ったほうがいいみたい。
……となると、そのあいだ時間がある。調べなくちゃね。あの大量の芥子の実を不正に横流ししてるのが誰なのか。




