33話 二階には
依頼がとぎれてしまった。
あいかわらず、ウィリアムさんのためにマジックオイルだけは作ってるんだけど、それもそろそろ終わりそう。百本ぶんのオイル、大変だったなぁ。
絵の仕事がないから昼間は店番なんだけど、そうすると、どうしてもこの前の山中で聞いた抜け荷について考えてしまう。
それについて、新たに得た情報もある。というのも、アマベラちゃんに満足してもらって、オーディトル家から帰るときのことだ。依頼主の奥さまに玄関までつれていってもらった。そこで、聞きおぼえのある声を聞いた。
ちょうど二階の踊り場に来ていたので、声のする階下を見ると、男の人が二人。一人はこの家の主人オーディトルさんだ。この前のとき、アマベラちゃんの部屋に来て、あいさつしてくれたからわかる。
もう一人のほうが態度がえらそう。上等な黒い服には豪華な金糸の刺繍。頭の上からだけど、なんとなく見たことがある。
思いだした。
この人、前に空き家でクノルエと話してた人だ。顔はともかく、声に聞きおぼえがある。しばらく、オーディトルさんと話したあと、帰っていった。
「あの人は?」
奥さまに聞いてみると、
「あれは内大臣ジュザベールさまの側近、ベルディナル子爵さまです。うちの上客さまですのよ」
「ベルディナル子爵……」
あの人の声、この前の山道で出会った男なんじゃ?
マジックポピーを他国に密売してる張本人。それが内大臣の右腕だなんて、なんだか、どんどん大きな事件になってくみたい。
あのとき、陛下の勅命って言ってたの、ほんとなのかな? でも、国王陛下の指示なら、密売なんてしなくてもよくない? ふつうに輸出すればいいだけなのに、なんで?
なんか、わけわかんなくなったなぁ。一つだけハッキリしてるのは、この件にクノルエが関係してるってこと。もしかして、父さまが死んだことにされたのもそれに関連してるんじゃ?
ああ、兄さまに会いたいなぁ。わたし一人で解決なんてできるかな? でも、がんばらなくちゃ。父さまがもしも生きてるなら、絶対に救いたい。
調べるとしたら、どこから?
そもそも、マジックポピーの実を栽培してるのはヴェネルティア神殿だけだ。ということは、あの大量の実も、ヴェネルティア神殿から持ちだされたんだろう。
よし。決めた。ヴェネルティア神殿へ行ってみよう。どっちみち、そろそろ新しい実が収穫されるころだから、買いつけにいくつもりではあったんだ。ついでに内偵してみればいい。
「すいません。ガルシニエさん。今日もお店、留守にしますね。ヴェネルティア神殿でマジックポピーの実を買ってきますので」
アトリエから階段をはさんだ奥。ガルシニエさんの部屋だ。ドアをノックして告げたけど、返事がない。
「あの、ガルシニエさん?」
勝手にあけるのはどうかと思ったが、相手は老人だ。万一にも、体調が急変して倒れてたら一大事だ。返事はなかったものの、あけてみた。
「ガルシニエさん。わたし、芥子粒を買いに——」
あれ? 無人だ。変だな。ガルシニエさん、いつ出かけたんだろう? アトリエを通らないと外へは出られないはずなんだけど……。
あっ、そうか。二階か。前にも二階からおりてきたっけ。お年寄りにしては達者だなぁ。しかたない。二階に行ってみよう。じつはまだ二階にあがったことないんだよね。わたしの寝室の屋根裏部屋には一階のロフトから行き来できるから。
トントンとあがっていくと、小さな踊り場があり、手前の部屋。手すりをまわりこんで左手の部屋。えーと。手前はマクシミアンさんの寝室のはずだから、奥の物置にいるのかな?
「ガルシニエさん……」
扉の前で声をかけようとして、あわてて口をつぐんだ。話し声が聞こえる。そんなバカな。だって、マクシミリアンさんは今日もお仕事に出かけていって留守だし、家のなかには、わたしとガルシニエさんしかいないはず。
ヤダ。まさか、亡霊? それとも古い家にいる妖精?




