31話 もしかして、陰謀?
ようやく、目的のアズライトがとれた。ほんのひとかたまりだけど、わたしがアンナの絵を描くには充分だ。
「マクシミリアンさんのおかげです。これで思いどおりの絵が描けます」
「がんばれよ」
ボソッとだけど、励ましてくれた。警戒心の強い野良犬を手なずけた感じ。
体は疲れはててたけど、気分は高揚していた。
ふもとまでおりたら日暮れかなぁ? お店に帰るのが夜になっちゃう。
なんて考えながら、もとの山道あたりまで戻ってきたときだった。わたしの前を歩いていたマクシミリアンさんが急に立ちどまる。思わず、広い背中におでこをぶつけてしまった。
「ちょ……なんなんですか? マクシミリアンさん」
抗議するわたしの口をマクシミリアンさんの大きな手がふさぐ。
「しッ」
ん? なんか、緊迫感。見あげると、マクシミリアンさんの顔がこわばってた。いったい何事?
しばらく木のかげに身をひそめていると、ジャリジャリと小石をふむ音が近づいてくる。足音。こんな山中で人が歩いてる。
いや、まあ、わたしたちだって歩いてきたんだから、登山者が一人もいないとは言わないけど、変だなぁ。山菜をとるなら、もっと下のほうだろうし、女神の住む山に意味もなく入ってくる人がいるとは思えないんだけど。たしかに隣国との国境付近ではある。でも、それだって、二国間の正規のルートは別にあるのだ。平原の道のほうが確実に楽。
とはいえ、登山者が皆無じゃないだろう。きっと、ただの山登りが趣味の人だ。または、わたしたちみたいに山でしかとれないものを探しにきたのかも。キノコとか。
そう思いつつ、木陰で待っていると、数人の男が上からおりてきた。何頭もロバをつれてるけど、荷物は背負わせていない。もしかしたら、荷物を運んで帰ってきたあとかもしれない。人間は四人。全員、男みたいだ。フードつきのマントで顔を隠してるけど、女にしては体格がいい。
あれ? あの男、どっかで見たなぁ。フードから見えてるのは顔の下半分だけ。でも、なんとなく覚えがあった。えらそうな口ひげ……。
「ようございました。天候に恵まれて、今回もとどこおりなく受け渡しできました」
「うむ」
「まったく、山越えなど高貴の御身に課せられるべきではありますまいに」
「いたしかたあるまい。陛下より、お直々のご勅命なのだからな」
「平原の街道ではいけませぬのか?」
「万一にも関所で止められては困る」
ここにわたしとマクシミリアンさんがいるなんて、あっちは思ってもいないんだろう。そんな話をしながら山道をくだっていく。
彼らのうしろ姿が完全に見えなくなるまで、わたしたちは動かなかった。話の内容がヤバイって、すぐにわかったからだ。足音も聞こえなくなり、それからさらに数分待って、ようやく、わたしとマクシミリアンさんはおたがいの目を見かわす。
「……今の聞いちゃダメなやつでしたよね?」
「不正な抜け荷の帰りだな。関所を通さず、輸出禁止の品物を隣国に渡している」
「ですよね」
それも、今回が初めてじゃない。あの言いかただと、これまでに何度もくりかえしてたようだ。
「陛下のご勅命って言ってませんでしたか?」
「言っていた」
それって国家的な陰謀ってことだろうか?
めちゃくちゃ大変な現場に出くわしちゃったなぁ。
それにだけど、わたし、さっきの人たちのなかで一番身分が高いみたいだった人に、どっかで会ってる。たぶん、貴族。香水の香りがしたし。でも、それが誰だったのか思いだせない。
「とにかく、帰ろう。ヤツらはだいぶさきに行った。もう出くわさないだろう」
こっちも急がないと山のなかで日が暮れたら大変だ。狼に襲われちゃうー。猿やイノシシだってイヤだ。
急いで道のところまで戻った。しばらくくだっていくと、足元に点々とゴマみたいなものが落ちていた。近くに小鳥が倒れてる。じゃないと気づかなかった。
「こ、小鳥が死んでる! かわいそう」
「いや、死んではいないな。寝てるだけだ」
「こんなところで? 寝てるっていうより倒れてるような」
「酔っぱらってるんだろう。変なものを食べたせいだ」
「変なもの……」
小鳥のまわりにちらばった白ゴマみたいなものがなんなのか、わたしにはひとめでわかった。ゴマよりは小さく、うっすらと緑色。見間違えるはずがない。三年ものあいだ、毎日、それに接してきたんだから。
それは、芥子粒——しかも、マジックポピーの実だ。




