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魔法絵師のミーラークルム  作者: 涼森巳王(東堂薫)
六章 兄弟子の願い

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30/53

30話 マクシミリアンさんとの約束



 体がフワッと宙に浮いて、一瞬、空を飛んでるような感覚。

 もうダメだ。わたし、ここで死ぬんだ。いや、死なないかもしれないけど、死にそう。

 兄さま。助けて!


 すると、誰かの手がわたしの腕をつかんだ。

 兄さま? 兄さまなの?

 ……違った。マクシミリアンさんだった。


「しっかりしろ。おれの手をつかむんだ」

「ふぁい」


 必死で手をにぎりかえす。その瞬間、ぐいっと強い力で持ちあげられた。岩棚に足がついていた。マクシミリアンさんがしっかり支えてくれてる。


「あ、あ、ありがとう……ございます」


 死んだかと思ったよ。

 こういうときは頼りになるね。マクシミリアンさん。だてに筋肉じゃない。


「あのぉ、ここは?」


 下から見たら断崖絶壁だったのに、目の前に小さな洞穴がある。下からは見えなくなってるみたい。ほんとにせまくて、わたしですら、かがんでじゃないと入っていけない。


「ここにアズライトがある。おれだけが知る秘密の鉱脈だ」


 かがんでもぐりこんでいくと、奥の壁がところどころ緑色になっていた。


「これはマラカイトだ。アズライトが空気にふれると変色してマラカイトになる。だから、アズライトとマラカイトはたいてい同じ場所から出てくる」


 しばらく二人で掘ってみた。マラカイトは少量とれるけど、青色の岩石は出てこない。


「最初はこの壁の表面が緑だったから掘ってみた。アズライトがとれるとわかって、掘りすすんだのが、この洞穴だ。いつくずれるかもわからん。危険だから、ふだんは人をつれてこないんだが」

「じゃあ、なんで、わたしはつれてきてくれたんですか?」

「……試したんだ」

「試した?」

「おまえの魔法絵にかける情熱が本物かどうか」

「えっ?」


 わけがわからず、マクシミリアンさんの顔を見つめた。わたしって試されるほど、嘘っぽかったんだ?


「……えっと、頭突きしてもいいですか?」


 マクシミリアンさんはすごく背が高いけど、二人ともかがんでるから、今なら、いい位置からアゴを狙える。マクシミリアンさんは苦笑した。


「いやいや。おまえが絵を描くのが好きなのは見てればわかった。だが、ただ好きなのと、命をかけてでもっていうのは違う」

「まあ、そうですね。わたしもさっきまで、これが絵師の仕事なのかって不思議だったので」

「でも、おまえは来た」

「来ましたね」

「なぜだ?」

「だって、アマベラちゃんに一番いい絵を見てもらいたいじゃないですか」


 ふいにマクシミリアンさんの大きな手がおりてきて、わたしの頭をポンポンと二回ほどたたいた。


 あれ? なんだろう? なんだか嬉しい?

 そうか。マクシミリアンさんって、お父さんみたいなんだ。大きくて安心できるっていうか。


 思いきって、これまでずっと気になってたことをたずねてみた。


「マクシミリアンさんは絵を描かないんですか?」

「……」


 マクシミリアンさんの顔に苦い表情が浮かぶ。


「おれには魔法絵の才能がないんだよ。それなりの絵は描けるが、奇跡を起こせない」

「そうなんですか……」


 魔法絵の才能はほんとにかぎられた人にしかないものだ。それも、外国では魔法絵じたいがないっていうから、この国のなかのごく一部だけ。はるか古代にかわした、女神ヴェネルティアとの契約のせいだっていうけど、ほんとかな?


「おまえの才能は本物だ。いいか? 約束だ。絶対にあきらめるんじゃないぞ。おまえは一人前の魔法絵師になるんだ」

「約束します」


 そうか。たぶん、マクシミリアンさんには、わたしが自分の才能に浮かれてるように見えたんだ。わたしの決意が甘いんじゃないかって。


 絵師になりたいって願いは、わたし一人のものじゃない。父さまと母さまの思いも重なってる。若くして亡くなった母さまのぶんも、弟子のクノルエさんにだまされて、どこかへつれていかれた(?)父さまのぶんも、わたしがたくさんの魔法絵を描いて、やっぱりルフィーリエ家の工房は世界一だって世間に認めてもらうんだ。絶対にどんな障害があってもあきらめない。そして、いつか父さまの行方もつきとめてみせる。


 このとき、わたしの決意はたしかなものになった。

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