3話 男子禁制の花園
そもそも、神殿は男子禁制だ。けがれない乙女しか入ることをゆるされてない。ほかの神様の神殿では、逆に女子禁制のとこもあるらしいけど、ヴェネルティア神殿では巫女の親族といえど、男は入っちゃいけない。ましてや、恋人なんて作っちゃダメ。芥子乙女に恋は禁物。
ところが、ある早朝。わたしは庭のかたすみで男の人を見た。木陰で誰かと話してるみたいだ。服装から言って芥子乙女なんだけど、顔は見えない。髪は長い……でも、ほとんどの芥子乙女は髪を伸ばしてるので、髪型で区別はつかない。
なんで男の人がいるんだろう、家族が会いに来てるのかな、なんて考えながら見てたら、あわてたようすで、その人は去っていった。もしかしたら、わたしの姿にむこうも気づいたのかもしれない。
そのときは不思議に思いつつ、深くは考えなかった。芥子乙女の朝は忙しいのだ。芥子のお世話で、もっとも大切なのが早朝の水やりだからだ。ちょっと寝坊してしまったので作業に遅れないよう急いでいた。
「サリエラ。遅かったね。早く持ち場につかないと、班長に叱られるよ」
「そういうエムラこそ。今ごろ、こんなとこにいるなんて、さては寝坊したな?」
「バレたか。急ごうよ」
神殿で友達になった芥子乙女とワイワイしながら、その日の作業を終えた。朝食を食べるために、数人で神殿へ戻っていると、血相変えた神殿長のホムルニエさんが近づいてきた。
「サリエラ。来なさい。話があります」
「わたしですか?」
もしや、遅刻したのがバレちゃったんだろうか?
ドキドキしながらついていくと、神殿長の仕事部屋に通された。そこには芥子乙女のリーダー、あの美人で高飛車なエメベラさまが待っていた。なんで、エメベラさまが? 遅刻には関係ないはずだ。
わたしたち二人を前にして、デスクの席についた神殿長は、じっとわたしの顔を見つめてきた。ふだんは厳しいながら公正な神殿長を尊敬してたけど、このときだけは、その目つきを見ただけで、何かとんでもない事態になってるらしいと察した。
「サリエラ。あなたに聞きます。今朝の作業前、どこで何をしていましたか?」
ドキドキ。やっぱり遅刻の件? いや、でも、神殿長の表情がかたすぎる……ような? 遅刻だけなら、せいぜい朝食ぬきの罰則だけど。ああ、でも、朝食は食べたいなぁ。
「えっと、その……」
「言えないのですか?」
神殿長の目がキッとつりあがる。怖い。怖いよ。しょうがない。朝食はあきらめよう。
「す、すみません。今朝は起きるのが遅くなってしまって……それで、寝坊しました。作業に遅刻して申しわけありません!」
「そんなことを聞いているのではありません」
えっ? じゃあ、何を聞いてるのっ?
「あなた、今朝方、外から侵入してきた男性と会っていませんでしたか?」
「ええっ? わ、わたしがですか? いいえ。違います。会ってません!」
「ほんとうに?」
「ほんとです!」
「ヴェネルティアさまに誓って?」
「もちろん、誓います!」
「もしも誓約が嘘なら、その者はこの神殿を出ていかなければならないのですよ?」
「嘘じゃありません!」
「そう……」
神殿長は悲しげに首をふった。
「ここにいるエメベラが、殿方と抱きあっているあなたを見たというのですがね?」
「ええっ?」
わたしがエメベラを見なおすと、彼女はツンとあごをそらして断言した。
「わたしは見ました。あれはまちがいなくサリエラでしたわ。神殿長さま。だって、その目立つ髪の色は、サリエラ以外いませんもの」
こう言われて、ぐっと言葉につまる。たしかに、わたしは赤毛。それも、赤毛とブロンドの中間。ストロベリーブロンドに近いんだと思うけど、光に透けるとピンク色がかって見える。とても、めずらしい。これは生まれつきで、染めてるわけじゃない。金髪や赤毛は少人数ながら神殿に数人はいるものの、わたしみたいな変わった色の髪はほかに誰もいない。父さまによれば、お母さまと同じ髪色なんだとか。あまりにも幼いころに亡くなって、お母さまのお顔は覚えてないんだけど。
神殿長がため息をつきつつ、あとをとった。
「ほかにも何人かの巫女が、侵入者の姿を見ているのです。男子禁制のこの花園に男が来たのは明白。手引きしたのがあなたなら、残念ですが、サリエラ。芥子乙女失格です」
「それって……?」
「あなたはクビです。神殿から出ていってもらうしかありません」
こうして、わたしは神殿を追放されたのでした。くすん。




