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魔法絵師のミーラークルム  作者: 涼森巳王(東堂薫)
六章 兄弟子の願い

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29話 秘密の採取場



 そこはとなりの国との境にある山脈。その一番手前の低い山。ウィオネラ山という。昔々はそこに火山の女神ウィオネラが住んでたという伝説がある。


「……どこまで登るんですか? もう二時間は登ってると思うんだけど」

「しゃべるとよけいツラくなるぞ」


 小石や岩がゴロゴロした山道を登り続けると、だんだん、あたりの樹木がまばらになってきた。背の低い木と草しか生えてない。山頂が近づいてるのかな?


 でも、マクシミリアンさんがめざしてるのは山頂じゃなかった。そこで急に登山ルートから外れた何もない斜面へ入っていったのだ。


「えっ? そんなとこ行くの? ちゃんと戻ってこれるんですか? 山のなかで迷ったら、わたし二度とふもとへおりられない自信アリアリですよ?」


 そういう自信はたっぷりある。というか、確信だ。なんせ、ふつうの街なかで迷うんだから。


「おれから離れないように」

「はい」


 大丈夫かなぁ? 体格違うから、ついてくだけでも、けっこう大変なんだよね。あんまり急がれるとあいだがあきすぎて見失っちゃうかも。


「こ、こんなところにほんとに鉱脈があるんですか?」

「しッ」

「えっ?」

「もしも人に聞かれたら困る」

「あ、はい……」


 こんな山のなかで誰が聞いてるっていうんだろう? 猿か狼かな? えっ? ヤダ。狼、出るの? 出るかもねぇ。猛獣だって話だよね? 人間なんて、パクッとひとかみされただけで引き裂かれちゃう。


 そんなのイヤだなぁ。怖いなぁ。無愛想だけど、マクシミリアンさんだけが頼りだ。はぐれたら、生きて帰れない。


 必死であとにくらいついてくこと半刻。谷をぬけ、沢を渡り、ようやくたどりついた。


「ここだ」

「えっ? ここ?」


 わたしはあぜんとして天を仰いだ。だって、断崖絶壁なんだもん。仰がざるをえない。


「《《ここ》》?」

「《《ここ》》だ」


 これが、鉱脈? ただの崖じゃない。


「この崖を掘ると、たまにアズライトやマラカイトの原石がとれる。とくに上のほうで」

「上……」


 つまり、この崖を登るってこと? ゴクリ。ちょっと……ムリそう。


「ここ、登るんですか?」

「いい絵が描きたいんだろう?」

「もちろんです。けど……」


 ここまで命がけじゃなくてもよかった……かな?


「おれがさきに登ってロープを岩に結びつける。あんたはそれをつたって、あがってくるんだ」

「……」


 できる、かな? でも、やらなくちゃ。ここまで来たんだから、自分の力でアズライトを見つけて最高の青色絵の具を作るんだ!


 マクシミリアンさんは慣れたようすで岩壁に張りつき、登っていく。ちょっとした出っぱりや大きな岩に手や足をかけて、スルスルと。見るまに、どんどん小さくなった。やっぱり、いつもこんな仕事ばっかりしてるんだ。どおりで筋肉モリモリだなぁ。


 しばらく待ってると、上からロープがたらされてきた。本気? わたしがここ登るの? 行くよ? 行くけどね。途中で力つきたら、どうしよう。まっさかさまだよね?


 すると、上から声が聞こえる。


「そのロープを腰に結ぶんだ」

「わかりました」


 それなら、わたしが万一、手をすべらせても、ロープで支えられる。すぐ落下はしない。なんとか行けるだろう。


 覚悟を決めて、ちょうどいい高さにある岩に足をかけた。その次はどこだったっけ? 手を伸ばしたとこにある出っぱり。よく見ると、この岩壁、断崖絶壁に見えて、人が登りやすいように削ったヘコミがあちこちにある。そこをにぎったり、足をかけたりすれば、なんとか登っていけた。わたしにはロープもあるから、なんなら、それを両手でにぎっておけば、あとは足をかける場所をさぐっていくだけ……。


 もうちょっとだ。もうちょっとで、マクシミリアンさんがいるとこにたどりつく。空が近いなぁ。これでも山脈のなかでは標高の低い山なんだ。なんで女神さまはうしろの高い山じゃなく、低い山に住んでるんだろ? ふつう高い山のほうが神聖な気がするんだけど。だからって、もう二度と登りたくない。やっぱり、キツイ。あと数歩でつくから、そのあいだの辛抱……。


 油断したせいだったかもしれない。足元がすべって、ロープをにぎってた手が離れた。落ちる。この高さじゃ、いくら腰にロープ巻いてても、ケガはまぬがれない。アマベラちゃんに絵が描けなくなる——


 こんなのやっぱり絵師の仕事じゃないよ!

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