表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法絵師のミーラークルム  作者: 涼森巳王(東堂薫)
六章 兄弟子の願い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/53

28話 求める青



 ……うまくいかなかった。

 プルシアンブルーもあざやかな青だけど、あの人形の瞳の色を表すには何かが違う気がする。


 試しにほんの少しだけ魔法絵の具にして、人形の目元を描いてみた。が、奇跡は起こらなかった。試作品とはいえ、心はこめたつもりなんだけど、それでも魔法が発生しなかったのは、やっぱり、何かが違うと感じたわたしの気持ちが影響したのかもしれない。


 あの人形の瞳。透明に澄んだ濃いブルー。宝石ならではの硬質な美しさだった。あの質感を絵で表現するのは画家の技術だとしても、魔法絵として成立しないのは、魔法絵の具が今回の魔法にあわなかったからだ。


「やっぱり、あの宝石の輝きには鉱石の顔料なんですよね。魔力はそこに宿ると思うんです!」


 思わず立ちあがってしまった。今日もまた夕食の席なり。今日は鱈のパイ包み焼きとトマトソースのパスタ。マクシミリアンさん、ほんと、何作っても上手だなぁ。もはや嫁にしたいレベル。


「あ、すみません。つい興奮しちゃって……」

「……」


 今日は無言か。そうだよね。マクシミリアンさんがしゃべることじたい奇跡なんだ。

 と思ってたら、なんと、奇跡が二夜も続いた。


「どうしても鉱石の顔料でやりたいのか?」

「は、はい。でも、ラピスラズリは高すぎて手が出ないです」


 そう。あれは宮廷画家か、それに匹敵する人たちしか使えない特別な鉱石だ。ラピスラズリじたいが宝石として珍重されてるんだから。


「ラピスラズリはうちでも仕入れないことはない。数年に一度、師匠に頼まれて採掘に行くんだが、今は切らしてる」

「採掘? だって、遠い外国でしかとれないんですよ?」

「だから、行くには数年がかりだ」

「なるほど」


 でも、それじゃ、今回の依頼にはまにあわない。パン屋さんのとき一ヶ月ではたりなかったので、もっと長い期間が欲しかったんだけど、病気がちなアマベラちゃんを待たせるのは酷な気がした。早く仕上げて、風邪を治してもらいたい。一日でも早く元気づけてあげたい。だから、やっぱり今回も期間は一ヶ月だ。何年もかけて鉱石をとりにいってる場合じゃない。


 すると、マクシミリアンさんが言いだした。


「……どうしても鉱石を使いたいというなら、アズライトはどうだ?」

「アズライト?」


 工房の娘に生まれて、ひととおりの顔料の材料は知ってるつもりだった。でも、アズライトは聞いたことがない。もっと正確に言えば、鉱石としては聞いたような気もする。でも、それが顔料になると知らなかった。


「アズライトはおもに東洋で使われてる顔料の材料だ。岩群青というらしい。銅の一種だから、やわらかくて砕きやすい」

「色は?」

「ウルトラマリンに劣らず、あざやかだ」

「でも、東洋の顔料でしょ? かんたんには手に入らないんじゃ?」


 マクシミリアンさんが笑ったので、ちょっとドッキリした。笑うと爽やかだなぁ。ヒゲさえそれば、けっこうなハンサムなのに。


「少量なら採掘できる場所が近くにある」

「ほんと?」


 こっくり。


「わたし、行きたいです」

「なかなか険しい場所だぞ?」

「それでも、行きたいです」

「では、明日だ」

「わかりました!」


 東洋の顔料か。どんな色になるか楽しみだなぁ。


 翌朝。いつもより早く起きたわたしは、マクシミリアンさんといっしょに出かけた。


「マクシミリアンさんは毎日、こういう仕事をしてるんですね?」

「……」


 あれ? 急にまたダンマリか。絵の具のことはあんなにしゃべってくれるのに。


「と、とにかく、案内よろしくお願いします」

「……」


 街外れまでは乗合い馬車。そこから、市場帰りの農家のおじさんの馬車に乗せてもらった。馬車っていうけど、ひいてるのはロバ。トロトロと歩いていく。


「うわー。牧歌的ですねぇ。わたし、街から出るの初めてなんですよぉ。十二でヴェネルティア神殿に入ったから」

「……」


 ちなみにマクシミリアンさんは徒歩だ。馬車のあとをせっせと歩いてついてくる。ちょっと距離があって会話が進まないなぁ。


 きれいな田園風景。

 近くの村から来たって言ってた芥子乙女仲間のシンシアとか、ヨルヴァはこのへんの出身なのかなぁ?


 二つ三つの村を通りすぎたころ、山が見えてきた。


「あれに登るぞ」

「えっ? あれ?」


 山登りか……。

 馬車とはここでお別れ。このさきは徒歩だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ