25話 二番弟子バリヴィエ
バリヴィエさんってちょっと言葉が乱暴で、昔から苦手だったんだよね。
もう追ってこないよね?
捕まったら殺されちゃうー!
「……殺さねぇよ」
「ぎゃー! いつのまに追いついてたの? イヤー」
「さわぐなって。おれだってナイショでぬけだしてきたんだ」
「お願い! 殺さないでー! 痛いのイヤー。苦しいのもイヤー」
「だから、おれは味方だって言ってんだろ! あんた、変わんないなぁ。ガキのころから思いこみ激しいつうか、おれの顔見たら悪魔に足つかまれたみたいな勢いで逃げだしやがって。可愛げないガキだったぜ」
「だって、バリヴィエさん、怖いんだもん! いっつもスゴイ顔でにらんでたじゃない。顔の筋肉かたまったみたいな」
「……それは、おれの笑顔だ」
「……」
そう言われてみれば、言葉は乱暴だったけど、とくに何かされたわけじゃないんだよね。むしろ、父さまがいる前でしか可愛がってくれないクノルエとか、いつもそっけなかった四番弟子にくらべたら、たまにお菓子くれたりして親切だったかも?
よく見たら顔立ちは整ってる。印象的な赤毛。笑顔さえ素敵なら、案外、怖くない……かな?
「わたしの味方って、ほんと……?」
「あたりまえだろ。あの工房は師匠がいなくなった今、あんたのもんだ。クノルエのやつ、絵の腕が認められないもんだから、あんたを追いだして工房を乗っ取った。そんなやりかた、おれは認めない」
「でも、工房がクノルエのものになっても誰も反対しなかったんでしょ?」
「反対したやつらは追いだされたからな。ケヴィラやウォンダリみたいにな」
「四番弟子と五番弟子!」
「そう」
「いなくなってたのはそのせいかぁ」
「だから、おれは表面上、クノルエを認めるふりして、ようすをうかがってたんだ。この前、セルディアのやつが、お嬢が帰ってきたけど、クノルエに追いだされたって聞いてな。心配はしてたんだ」
うーん。まだ信用はできないなぁ。そんなこと言っといて、クノルエの手下かもしれないし、もしかしたら、すきを見て自分が親方になろうとしてるのかもしれない。
前ならすぐ信じたんだけどな。なんか、人間って嘘ばっかりだから。
「……信用してないって顔だな。まあいいや。とにかく、あんた、何しに戻ってきたんだ。今度クノルエに見つかったら、何されるかわかんねぇぞ」
たしかにね。これ以上、工房に近づくのは危険だよね。試しに母さまの精製機のこと、バリヴィエさんに頼んでみよっかな? もしも持ってきてくれたら、ちょっとは信用してもいい。
「じゃあ、わたしの母さまが使ってた精製機を渡してほしいの。母さまって芥子乙女だったんでしょ?」
「よく覚えてたな。ミリエラさまが亡くなったとき、お嬢はまだ三つかそこらだったろ?」
「思いだしたのよ。お願い。母さまの道具、とりもどしたいの」
「わかった。師匠たちの遺品は全部とってある。高価な道具が多いからな。おれが何度もぬけだすと怪しまれる。セルディアに持ってこさせるよ」
「ありがとう」
バリヴィエさんは戻っていった。しばらくして、包みをかかえたセルディアがかけてきた。
「お嬢さん! なんでウェントゥス神殿に来なかったんですか? 何回、見に行ったと思ってんですか」
「ごめん。いろいろあって」
「……無事ならいいんだけどさ。今、どうしてんの? 住むとこある?」
「それは大丈夫。いい人に出会って」
「ならいいけど。連絡とりあえるように、そこ教えてくださいよ」
「白い花の奇跡っていう名前の絵の具屋さんだよ」
「じゃあ、おれ、たまにそこ行くから。工房のことで何かわかったら連絡します。あ、バリヴィエさんは味方だよ。あのあと、おれがひんぱんにぬけだすんで、わけを聞かれて。でも、あの人はまがったこと嫌いだから、きっと理解してくれると思ったんだ」
「バリヴィエさんって昔からクノルエと仲悪かったよね?」
「よく口論はしてた」
じゃあ、とりあえず信頼してもいいかな。
「なら、大切なこと話す。ついさっき、空き家になってるとこで、クノルエが貴族っぽい人と話してるの聞いたんだけど……」
両手で口を覆って耳打ちすると、セルディアはそばかすの目立つおもてに驚愕の表情を浮かべた。
「えっ? 師匠が生きてる?」
「そうかもしれない」
「じゃあ、今、どこにいるっていうんだ?」
「それはわからない」
「バリヴィエさんに相談してみる。それも調べてみるから」
「お願いね」
仲間がいるって、ほんと心強い。




