24話 廃墟の男たち
そのあと、わたしは必死に男たちの会話を聞きもらすまいと耳をすました。でも、ボソボソ低い声はところどころしか聞こえない。
父さまが生きてる?
それって、どういうこと?
父さまはたしかに死んだって……でも、そういえば、わたし、父さまの遺体を見てないんだ。
あれは十年前。わたしが五歳のとき。朝、目がさめると、とつぜん、工房のなかがさわがしくなっていた。なんだろうと思って寝室を出ていくと、父の弟子たちが右往左往していた。父が倒れたとか、伝染病だとか、そんな言葉がささやかれて。
そのうち、クノルエさんがみんなを集めて説明した。
「夜中に師匠がとつぜん倒れられた。医者に見せたが手遅れだった。うつる病なので亡骸は係の役人たちがそのまま運んでいった」
まさか、あれって……?
クノルエはわたしをだまして工房を乗っ取ったし、まさか、あれも嘘だったの? 父さまはまだどこかで生きている?
そういえば、兄さまが旅立ったのは、あのあとすぐだった。それも何か関係あるんじゃ?
なんだか怖い。もっとよく話を聞きたいけど、見つかったらどうなるんだろう? この人たち、人の命をなんとも思ってない。早く殺せのどうのと言ってる。たぶん、見つかったら殺される。
ヒザがガクガクしてきた。あの人たちが出てきても見つからないよう、もっとちゃんと隠れられる場所はないかな? あの出窓の下なら、手前はほったらかしにされた木の枝が茂って、パッと見わかんないんじゃない?
歩きだそうとして、足元のがれきをふみくずしてしまった。
「誰だ!」
二人が走ってこっちへ来る。わたしはとにかく出窓の下へもぐりこんだ。たぶん、頭をひっこめたギリギリのタイミングで上から男がのぞきこんだみたいだ。
「誰もいない」
「こんな裏通り、わざわざ通る者はありません。きっと野良猫でしょう」
「ならばいいが」
よ、よかった。見つからなかった。でも、今の声は近かったのでハッキリ聞こえた。おかげで、それが誰なのかわかってしまった。
クノルエだ。もう一人はわからない。わたしの知らない人なんだろう。
なんで、クノルエがこんな廃墟で秘密の話なんか。もしかして、父さまに何かしたの? 死んだって嘘をついて、どっかに監禁してるとか?
父さま。生きてるなら会いたい。捕まってるなら助けだしたい。
二人の男はすぐに廃墟から出てきた。たしかに片方はクノルエ。もう一人は身なりのいい四十代の男で黒いマントをつけてる。えらそうなヒゲを生やしてるし、貴族か、貴族に仕える重臣か、そんなところだ。男は迎えにきた馬車に乗って帰っていった。それを見送って、クノルエは歩いていく。
わたしも出窓の下をはいだして、あとをつけていった。だんだん見覚えのある道になってくる。クノルエは父さまの工房へ入っていった。今日はもう悪いことはしないのか。
はからずも最初の目的地へついたけど、だからって工房には大勢の姿がある。父さまの二番弟子バリヴィエさん。三番弟子カルナスさん。四番と五番弟子はいないなぁ。六番弟子のダリアンさん。知らない人もたくさんいる。あとは……あっ、いた。セルディアだ。
おーい。気づいて。わたしだよぉ。おーい。
通りをはさんでむかいがわから大きく手をふってると、セルディアが顔をあげた。気づいてくれた? いや、ダメだった。顔料を奥へ運びだした。えーい。もう一回。おーい——
と、しまった!
二番弟子バリヴィエさんとバッチリ目があってしまったー! バリヴィエさんが工房を出てくる。わあっ、こっち来るよ。逃げよう。
懸命に走って、かどを二回まがったところで、遠くから声が聞こえてきた。
「サリー嬢さん! 待ってくれ。おれはあんたの味方です」
えっ? ほんと?
一番弟子があの調子だし、二番弟子も信用できない……。
クノルエの乗っ取りに手を貸してないとは言いきれないし。しかも、クノルエ、さっきの感じだと、ただ乗っ取っただけじゃない。もしかすると父さまにもヒドイことしてるかもしれないんだ。捕まったら、ほんとに殺されてしまう。
やっぱり、逃げよう。




