20話 侍従フィーリオ
いろいろあったけど、初めての依頼は大成功。姫さまはご機嫌で、わたしをマーガレットさまの部屋まで送ってくれた。たしかに一人だとまた迷ったかもしれない……わたしって、もしかして道が覚えられないの? 神殿から出たことなかったから気づかなかったけど……。
「あにうえ。あにうえ。聞いて、聞いて。あのね。サリーがシャーリーンの絵を描いてくれたのよ。スリスリして、ピョーンってなって、すごかったんだよ!」
ドアのなかへとびこむ姫さまのあとを追っていく。室内には幸せそうな伯爵令息とウィリアムさんがいる——のは当然なんだけど、もう一人、男の人が立っていた。服装から言ってお屋敷の誰かなんだろう。でも、令息(たしか名前はアンディラ)にくらべてひかえめな服だから、使用人かなぁ?
「ララベラ。ずいぶんご機嫌だな。ララも魔法絵を描いてもらったのか?」
「うん!」
元気な姫さまを室内の三人が同時にふりかえる。令息のかたわらに立つ男の人の顔を見て、あぜんとしてしまった。
嘘でしょ? だって……だって、その端正な顔立ちはどこから見ても兄さまなんだもん! どうして? 侵入してきたんじゃなかったの? なんで伯爵令息といっしょに?
でも、さっき廊下で出会ったときとは服も違うし、何より髪の色が銀色だ。兄さまはお日さまに輝く金髪。この人は銀髪。瞳の色はどちらもグリーン……。
うーん。顔立ちはそっくりなんだけど、なんとなく、さっき再会した兄さまとはどこか違う……ような気もする。ふんいきというか、微妙な何か?
わたしがあんまり見つめてたからか、兄さまのような、そうじゃないような男の人はかるく会釈をした。
「初めまして。わたくし、アンディラさまの侍従フィーリオと申します」
侍従? 令息のお付きの人? 初めましてってことは、兄さまじゃない? そりゃそうか。廊下で会ったのが、ほんとの兄さまなんだもんね。いくらそっくりだからって兄さまが二人いるわけないし。
それとも、わたしが姫さまと話してるうちに、さきまわりしてこの部屋に来てたとか? だとしたら、これは兄さまが伯爵家で暮らすための仮の姿? 銀髪はカツラかなぁ?
兄さま? 兄さまじゃない?
廊下で再会した兄さまと同一人物? 別人? いや、別人にしては似すぎてる。
もう頭のなかがグチャグチャで何も考えられない。呆然としてると、フィーリオはわたしの手をつかみ、砂糖菓子をそっと口に運ぶように、その甲に接吻した。貴婦人に対する仕草だ。そんなあつかいを受けたことのないわたしは思いっきり顔がほてるのを自分でも感じた。ああ、たぶん、真っ赤になってるぅ。
すると、わたしたちの態度に気づいたのか、ウィリアムさんがムッとしながら立ちあがった。ウィリアムさんはアンディラさまと窓辺の円卓のところにすわってたんだけど。
「おいおい。その子は僕のつれだよ。いくら、君が世界中の女性に優しいからって、好き勝手してくれちゃ困る。どうせ、初心な女の子をからかっただけなんだろう?」
「失礼しました」
あっ、もう。ウィリアムさん。よけいなことを。もっと兄さま(かどうかはわからないけど)と話したかったのに。やけに怒ってるけど、なんでだろう?
「さ、もう帰るぞ。では、アンディラさま。またのご依頼をお待ちしております。よろしければ、お二人のご成婚記念の大絵などもご用意いたしますが?」
「ほう。それはいいな。ぜひ頼む。報酬ははずむから」
「お任せくださいませ」
ウィリアムさん。アンディラさまと話しながら、わたしの肩をどんどん押して、退室しようとする。なんなの、もう。ジャマだなぁ。
でも、アンディラさまが呼びとめてくれた。
「待て待て。妹が絵を描いてもらったようじゃないか。報酬はもらったのか? 娘さん」
「いえ。今回はわたしの腕試しもかねておりましたので、代金は必要ありません。幼い姫さまから何かいただこうとは思っておりませんでした」
「しかし、魔法絵ならば絵の具だけでも庶民には高価なものだろう。絵の具代だけでも支払おうじゃないか」
もしかして、これってチャンスなのでは? ここに来れば、兄さまにも、兄さまそっくりなフィーリオにも会える。出入りの口実が欲しいよね。
「わたし、『白い花の奇跡』の魔法絵師サリエラと申します。絵の勉強のために調度品などのスケッチをしたいのです。姫さまにもまた会いたいですし、ときおりでかまいません。お屋敷にお出入りさせていただけませんか?」
「ふむ。まあ、ララの遊び相手としてならよかろう」
「ありがとうございます」
わあっ、やったー。これで訪ねてくる理由ができた。




