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魔法絵師のミーラークルム  作者: 涼森巳王(東堂薫)
四章 兄さまとの再会?

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19話 子猫のシャーリーン



 やっと……やっと、たどりついた! 姫さまのお部屋。扉の浮き彫りが猫のモチーフ。


「ごきげんよう。姫さま。おいでですか? サリエラです。お約束の絵をお持ちいたしました」


 ドアの外から呼びかけると、ものすごい速さでひらいた。扉のすぐ手前で待ちかまえてたかと思うほどだ。


「サリー! やっと来た。早く、早く。絵を見せて」

「これがお約束のシャーリーンの絵です」

「……小さい」

「す、すみません。わたしの今の技量では、これが精一杯でして」


 一号サイズだから、大きな絵画を生まれたときから見なれた姫さまには、さぞ小さく粗末に思えたに違いない。


 だけど、奇跡さえ起これば、きっと喜んでもらえるはず。心配事が多くて、なかなか集中できなかったものの、やれるだけのことはした。白猫の毛のフワフワ感を出すために、アトリエで一番繊細な線の描ける細い筆を使った。色彩が単調になりがちな画題なので、陰影に水色、薄紫、グレー、ピンク、レモンイエローなんかも使った。マジックオイルは買ったばかりの芥子粒がたくさんあったから、たっぷり使えたし。


「シャーリーンが好きだった場所はどこですか?」

「この出窓。よくここで、ひなたぼっこしてた」


 わたしはキャンバスを出窓にたてかけて置いた。まだ布で覆ってある。


「布は姫さまがとってください」

「うん」


 少し背のびしつつ、姫さまが布をめくる。今回はうまくいかないわけがない。試験のときよりは、ずっとうまくなってるし、自分でも手ごたえがあった。


 この仕事してると、ドキドキするなぁ。きっと、いつになっても同じなんだろうな。でも、このドキドキは嫌いじゃない。


 姫さまの小さな手が布を外す。出窓に丸くなって眠る子猫が現れた。もちろん、わたしが描いた絵なんだけど、全体が魔法の力に包まれて、まるでほんとにそこで眠っているよう。


「わあっ。シャーリーンだ!」


 姫さまがなでると、シャーリーンは目をさました。姫さまの手に丸っこい頭をすりつけてる。


 よかった。我ながら、よくできてる。シャーリーン、可愛いなぁ。


 姫さまが抱きあげようとすると、シャーリーンはすりぬけるように、すくっと立った。全身の淡い光がだんだん強くなってくる。魔法の時間が終わりに近づいてる。


 魔法絵は依頼主の心に宿る願望が形をとる。だから、ほんとなら、姫さまがもう一度シャーリーンをだっこしたいと思ってるなら、そうなるはずだ。そのまま腕のなかで消えていく……それがふさわしい奇跡。なのに、立ちあがったシャーリーンは賢しげな眼差しをこっちにむけて見つめたあと、出窓からとびだした。


「あっ、シャーリーン!」


 これは、もしかしたら、本物のシャーリーンがいなくなったときの行動なのかもしれない。シャーリーンは出窓でよく寝ていた。もし、窓がひらいていれば、誰も知らないすきに外に出てしまっても不思議はない。ここは二階だから、人間はとびおりられないけど、猫なら——


「シャーリーン!」


 姫さまとわたしはならんで窓の下を見おろした。もうほとんど白い光の玉になったシャーリーンが、階下の壁をカリカリしてる。何か気になるものでもあるんだろうか?


 すぐにも行ってみたかったけど、さすがに猫のマネして窓からとびおりるわけにはいかない。オロオロしてるうちに魔法の時間は終わった。光の玉がだんだん膨張ぼうちょうして、シャーリーンの姿は消えてしまった。あとには子猫の絵が一枚、出窓にたてかけられているだけ。


「ああ、消えちゃったぁ……」

「シャーリーン。なんで、外になんて出たんでしょうね? いくら猫だからって、この高さからはふつう、とびおりないと思うんですが」

「シャーリーン。お外行っちゃったのかなぁ? 戻ってきてくれないかなぁ?」


 わたし的にはまだ生きてるかどうかのほうが危ぶまれるんだけど、それを姫さまに告げるのは酷ってもんだ。ほんと、戻ってきてくれたらいいな。

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