18話 遭遇、侵入者!
目の前の扉がひらき、そこから出てきたのは、なんと兄さま!
今回は目の前だったから、バッチリ顔があった。顔どころか、目もあった。瞳の色はグリーン……? あれ? 兄さまの瞳はブルーだったと思うんだけど。
兄さま? うーん、違う?
いや、やっぱり兄さま?
兄さまの面影はある……ような気もする。けど、ふんいきが、なんか違う?
でもでも、でも! このレベルの美形はそんじょそこらにいないよ? なんて綺麗なお顔でしょう。金色の長いまつげに縁取られたアーモンド型の双眸。細くスッキリ通った鼻筋。厚すぎず、薄すぎない唇は、きっと笑顔のときが一番素敵。
うん。まちがいない。兄さまだ。たぶん、うん。確信が持てないのは、あれから十年もたってしまったから。わたしの記憶も薄れてるだろうし、それに、兄さまは少年期から青年期に入って少しくらい顔立ちが変わってても不思議はないし。
「……ヴィヴィエラ兄さま、だよね?」
すると、なぜか、兄さまはちょっと考えこんだ。
「兄さま?」
「ああ……うん。君は、サリエラ、かな?」
あれ? 迷ってる?
「あっ、そうか。わたし、別れたとき、まだこんなに小さかったもんね」
「ああ、そうだね」
「やっぱり兄さまだ! 会いたかったよ!」
嬉しさのあまり抱きついた。あの香りがする。兄さまの香り。涙があふれてくる。
でも、わたしが再会の感動に打ちふるえてるっていうのに、兄さまはとつぜん、あわてたようすで、
「とにかく、こっちへ」
わたしの肩を抱いて、出てきたばっかりの部屋のなかへつれていく。
なんか変。まるで人目を気にしてるみたいな?
ハッ! そうだった。兄さまって、もしかして泥棒かもしれないんだった?
「兄さま……なんで、このお屋敷にいるの? 忍びこんだんじゃないよね?」
違うと言ってほしい。けど、入ってきた部屋も変だった。誰かの書斎じゃないだろうか? 立派な文机があるし、まわりの蔵書も金箔押しの豪華そうなものばかり。うーん。伯爵の仕事部屋とか、そんなふんいき?
……やっぱり、兄さまって、泥棒?
どんな返事が返ってくるのか。聞くのが怖い。ひざがガクガクふるえてきた。ああ、どうしよう。どうしよう。今すぐ、ここから逃げだしたいよ。
いや、ダメだ。怖いからって逃げてたら。真実を知らないと、兄さまを助けられない。兄さまが困って苦しんでるなら、わたしも力になるよ。だから、悪いことしないでほしい。
「ねぇ、兄さま。ほんとのこと言って。わたし、もう子どもじゃないよ。何かわけがあるの? そうなんでしょ?」
「わかった。君にももう話しておくべきだろうな」
「もう? それって、どういう……」
「じつは——」
兄さまが口をひらきかけた瞬間だった。カツカツと足音が近づいてきた。兄さまはあわてて、わたしを文机の下に押しこむ。唇に人さし指をあてたあと、自分は窓辺へ走っていった。呼びとめてる時間はなかった。兄さまが窓をあけて出ていくかどうかに、足音がとまり、扉がひらかれた。誰かが入ってくる。
誰? 伯爵? のぞいてみたいけど、見つかったら、なんて言われるかわからない。わたしのほうこそ泥棒あつかいされるかも。わけのわからないまま机の下でちぢこまっていた。
その誰かはまっすぐデスクにむかってくると、引き出しをあけたみたいだ。そこから何かをとりだして、また扉へ戻っていく。よかった。出てってくれる。
扉をあける音がしたので、わたしは机の下から這いだして、ちょっとだけのぞいてみた。直後にパタンとドアが閉まった。顔は見えなかったけど、男の人の足元が見えた。伯爵にしては地味な服装だったかも?
とにかく、早くここから逃げださないと。
兄さまはどこ行ったかな? あとから来た人に見つかってなかったから、うまく逃げだせたとは思うけど。
窓からのぞくと、庭木のあいだを走ってくうしろ姿が見えた。スゴイ。ここ三階のはずだけど、よくおりられたなぁ。さすが兄さま。
さてと、わたしも逃げよう。そっとドアをあけて廊下をうかがう。大丈夫。誰もいない。
あれ? 遠くのかどをまがった人の服、さっき、この部屋から出てった人? 伯爵じゃないだろうなぁ。召使い……それも地位の高い召使いだ。




