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西の桶狭間 ~毛利元就の初陣~ - rising sun -  作者: 四谷軒
第三章  多治比元就の初陣
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38 怪力乱神(かいりょくらんしん)

 西村勘九郎――と称した、長井新九郎さすがに何も言わずに去るのも、怪しさを伴わせるかと思い、伴重清ともしげきよに目礼したそのとき。


「武田どの! 元繁どの! お聞きくだされ! 宮島の、厳島の、神のお告げでござる!」


 そう、大仰に叫ぶは、己斐こい城の城主、己斐宗瑞である。

 己斐家は、厳島神社の神主につらなる家である。そして、厳島神社の神領は、安芸武田家・武田元繁の安芸奪取の戦いの戦端において、まず接収されたところだ。

 ただ、己斐城の己斐宗瑞は、安芸武田家に従うを良しとせず、武田元繁に対して抗戦の意志を示し、籠城戦に入った。

 この己斐城を救うために、安芸国人一揆の盟主たる毛利興元が、吉川家の宮庄経友とともに有田城を攻略したことが、今回の毛利家と安芸武田家の一連の戦いの直接の契機である。

 毛利家と安芸武田家。

 微妙な均衡を保ちつつ、時は流れ、やがて大内義興という巨人が帰り来れば、すべてが終わるかと思われた。


 しかし――毛利興元は死んだ。


「これでは、己斐は食われるではないか」


 事態の急変を悟った己斐宗瑞の動きは早かった。

 即座に安芸武田家に対して恭順を申し入れ、早速に、有田城攻めに、手勢を率いて馳せ参じたという次第である。


 そして――その、厳島の神主の家とつながりのある己斐宗瑞が。

 

「厳島神社の神のお告げ」


 などと言ってきたわけである。


「眉唾物だな」


 安芸の勢力地図をすでに頭に叩き込んでいる長井新九郎は、お告げお告げとうそぶく己斐宗瑞を冷ややかに見た。


「だが、少し面白いものが見られそうだな、どれ」


 いかにも、帰りかかったけど何かあるのか、という雰囲気を醸し出し、新九郎は佇立して、己斐宗瑞のこれからの見世物を眺めることにした。



「それがし、こたびの有田への出陣にあたり、厳島の神のお伺いを立て申した。そして今、そのお返事が、というかお告げが参った次第!」


 己斐宗瑞は大げさに懐中から書状を取り出す。

 安芸武田家に寝返ったという経緯を持つ宗瑞は、同じ軍中の将兵から無言の「裏切者が」という圧力を感じていた。

 そのため、武田元繁へ自身の存在を強調することに必死だった。

 しかも、この場において、厳島神社の神主の家柄は自分だけだ。

 誰にも文句は言えない。いや、出させない。

 宗瑞は書状を()()と広げて、大声で読み上げる。


「ええ、こたびのいくさ~、勝利した者は~、この~安芸を~制するで~あろう~」


 宗瑞自身は重々しく読んでいるつもりだが、芝居めいた雰囲気が生じる。

 長井新九郎は冷笑する。

 武田元繁は無言だ。

 安芸武田家の諸将も、そんなことは決まっておろう、と無感動の表情だ。

 宗瑞はかまわず、つづきを読む。


「ええ~、しかるに~、安芸を~、制したのちは~、この~、中国を~制するで~あろう~」


 中国とは、この場合、中国地方のことだ。

 武田元繁は、安芸を制したのちは、周防の大内家、また、明示していないが出雲の尼子家を攻略することを示唆している。つまりは、中国=中国地方を制覇することを目指していた。

 この「厳島神社の神のお告げ」は、その野望を後押しするものだ。


「ふっふ……」


 元繁が破顔する。

 宗瑞は、「神のお告げ」が効果を上げたことを確信した。

 元繁は宗瑞から書状を受け取り、うんうんとうなずいて、己の目でも読み、確認した。

 そして書状を持った手を上げ、快哉を叫んだ。


「見よ! 神のお告げぞ! われこそは安芸を制し、中国をも制する者なり!」


 並みいる将兵は喝采を叫んだ。

 自分たちこそが、この安芸武田家の覇業の始まりを見ることになり、それを支えるのだと。


「……なかなか面白い見世物だった……が、果たして……こたびの戦、勝つのはどっちかな?」


 長井新九郎は誰に聞かせるでもなく、そのつぶやきを洩らし、やがて、去っていった。

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