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西の桶狭間 ~毛利元就の初陣~ - rising sun -  作者: 四谷軒
第二章  安芸(あき)の項羽・武田元繁、起(た)つ
14/29

14 画策

 毛利家宿老・志道広良しじひろよしが地図を持ってくると、多治比元就は、兄・毛利興元を地図の前に来させて(酒から遠ざけて)、言った。


「現状、安芸武田家に味方する国人ですが、目ぼしいところはやはり、山県やまがた郡の山県氏」


 山県郡は、安芸の北部にあり、南部にある己斐こい城とは、いわば反対側に位置する。


「……で、その山県の城・有田城……これは元は、たしか吉川きっかわ家の城だったはず。広良、相違ないか?」


 広良はうなずく。


「相違ございません」


 元就は破顔した。


「……よし、これなら何とかなるかもしれないぞ」


「…………」


「…………」


 何のことだと言いたげな、興元と広良の視線を受け、元就は説明した。


「ええと、己斐城は今、囲まれてはおるが、落ちてはいません。そこで、安芸国人一揆としては、山県郡の有田城を攻めます。すると……」


「すると?」


 広良が先を促す。


「安芸武田家がいかに勢威を誇っているとはいえ、それに従う国人の危機を見逃すわけにはいきません……つまり、己斐城にいる軍を、有田城の救援に回さざるを得ない」


 己斐城の包囲が解ければ、しめたものである。そこで安芸武田家の侵略は停止する。自らの勢力圏内にある有田城を守るために、戦わざるを得なくなる。


「ここまで来れば、安芸武田家討伐はかなわなくとも、われらそのためにいくさを仕掛けた、という言い分が立ちます」


「ほう」


 興元が膝を進めてきた。興味が湧いてきたらしい。元来、頭はいい方であるので、こういう作戦を考えるのは好きな方である。


「……で、有田城を攻めると言うことは、本来の城の持ち主である吉川家を担ぎ出す、格好の名分でござる」


「それで、さきほど、有田城について聞いたのでござるか」


 広良が唸った。

 たしか元就はまだ初陣前である。それが、このような軍略を考え出すとは……やはり、安芸国人一揆結成の頃から考えていたが、ただ者ではない。


「……ふむ」


 興元は、吉川家からの兵がいくら来るとして……と胸算用をする。戦には飽いたが、だからといって、戦から逃げてばかりではいられない。


「……多治比どの、では、吉川と示し合わせて、有田城を急襲すれば、落城させることが、できるやもしれぬ」


 かつて上洛して、船岡山の激戦を戦い抜いて、大内義興や尼子経久、そして安芸武田元繁ら知将猛将と共に馬をならべて、何より、法蓮坊という不世出の名将と共に戦った経験が、興元にそう告げていた。

 元就はほくそ笑んだ。


「重畳でござる、兄上。そしてもし落城がかなえば……でござる」


「分かってる、皆まで言うな」


 興元は久々に、酒ではなく策に酔い始めていた。

 この弟は、もしや、法蓮坊に匹敵する名将やもしれん……と、身内贔屓みうちびいきめいた感覚を抱きつつもあった。


「皆まで言うな……落とした城は、()()()()()


 これには、広良が反発した。


「なにゆえ!? われら毛利のものとしなくて良いのですか?」


「広良」


「は」


 興元は、広良に向き直った。


「変に有田城をわがものにしたら、今度は安芸武田は、わが毛利へ攻めかかって来るぞ」


「あ」


 ようやく広良にも、元就と興元の描いている絵図面が見えてきた。

 吉川家の旧領である有田城を攻めるという名目で、吉川家を抱き込む。

 有田城を攻めれば、安芸武田家は、その救援のため、己斐城から撤退せざるを得ない。

 毛利・吉川連合軍が有田城を落としたのちは、有田城は吉川家のものとする。

 そうすれば、以後、安芸武田家は、()()()()有田城を攻撃目標と定めるであろう。

 ……であれば、以後、()()()()戦わざるを得ない、安芸武田家と。毛利家と共に。


「……そして兄上、こたびの戦、肝心要かんじんかなめは」


「……分かっている。戦が長引けば、長引くほど有利……さすれば、大内義興公とまではいかずとも、陶興房すえおきふさどのの出馬の目も見えてくる」


 大内家としては、味方有利、あるいは戦線膠着と見られれば、早期決着を目指し、兵力投入を視野に入れるだろう。

 元々、大内家が本腰を入れれば安芸の平定はやすいことと見られていたのだ。そこを、京の事情を最優先した結果、安芸武田家帰国という奇策に出たのだ。

 本来の安芸守護であり国主である大内家が出れば、その時点で毛利の役割は終わりだ。そして、ここまでの状況を作り上げたという功績を認められるであろう。吉川家としても、旧領回復という旨味がある。


「……よし、そうと決まれば、広良、早速諸将を集めよ。軍議を開いたのち、出陣いたす」


「は!」


 広良が駆けるように去っていくのを見送り、元就は興元に耳打ちした。


「……兄上、吉川家には私が参りましょう」


「頼む」


 ことは迅速に運ぶに限る。毛利の出陣と同時に、吉川にも出陣してもらう必要がある。

 そして吉川にものを頼むにあたり、元就ほどの適役は、他にはいない。

 元就は立ち上がった。


「うけたまわりましょう……ただし」


 そこで元就は言葉を切った。それを興元はいぶかしんだ。


「……何だ?」


()()が成った暁には、酒は控えてもらいますぞ、兄上」


「……考えておく」


 前祝い、とばかりに杯を手に取っていた興元は、()()()()()()()、それを置いた。

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