その4 肩
ペットショップに行く道中、肩を捕まれた。
「ちょっと、そこのお兄さん」
振り向くと、ラフな格好をした男が立っていた。
息が首筋にかかりそうだ。石鹸みたいな香りがした。
男はしばらく俺の顔を覗き込んだ。
「あ、あの、なんでしょうか。」
「うーん。透明のわりに、普通やね。」
男は口をへの字にして、肩を落とした。
「まあええわ。魔法、そのうち使えるようになるで」
「それと。「白の探偵さん」には気をつけやぁー」
背中を向けたので、思わず反射で引き止めた。
「なんや? これ以上はお金取るで?」
「ほな。」と言いながら手を振り、男はどこかに去っていった。
手渡された名刺には「神成 稲荷」と書かれてた。
肩書は空欄。連絡先だけやけに整っていた。
卯月さんは肩をすくめて言った。
「なんというか、嵐のような人でしたね?」
俺は首をもたげ、ため息をついた。
だが、背中に刺さった値踏みするような視線が消えない。
「おい、そこのお前」
振り向くと、そこには黒い女性が立っていた。
黒のモノトーンコーデ。地味なのに、やたら目を引く。
「……お前だったよな? 不法滞在未遂。」
息が喉で引っかかった。
「失礼。名刺です」
彼女は表情だけにこやかにして、名刺を差し出す。
――
稲葉探偵事務所
事務所顧問探偵 葉月 凛
――
……探偵。白ではない。
「わ、わぁ。すごい。本物の探偵さんだ」
卯月さんは目を輝かせながら小声でつぶやいた。
葉月さんは淡々と言った。
「まあ、そんなに憧れる職業じゃありませんよ。実情はペット探しとかです。」
「……ただ、それでも少し人手が必要でして」
彼女は一瞬視線を外した。
「どうでしょう、お暇な時で結構です。お手伝いいただけないですかね?」
「もちろん、日給は出します」
「え! 探偵さんになれるんですか! やりたい!」
卯月さんがそういうと、一瞬だけ葉月さんは苦い顔をした。
「どうでしょう? 彼女さんも乗り気のようですし」
卯月さんはしかめっ面で首を振った。
「違います」と小さく。
葉月さんの鋭い視線が一度だけ刺さった。
……断る理由もない。金もない。
それに警察にあることないこと言われても困る。
「あ! 私、明日なら空いてるよ?」
「……じゃあ、葉月さん。明日でどうでしょう?」
葉月さんは頷いた。
「ええ、こちらは問題ありません」
「日時は明日、昼までに名刺の住所にある事務所に来てください」
「では、よろしくお願いします」そう言って、葉月さんはどこかに去っていった。
「や、やったぁ! 1日探偵体験だ!」
卯月さんがはしゃいでいたので、俺は釘を指した。
「あ、あの。今日の目的、忘れてないですよね?」
「なんでしたっけ?」
……この女。
俺たちはペットショップに向かった。




