表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

その3 図書館

ふと、辺りを見渡すと、さっきの子がまだそこにいた。

「……何されてるんですか?」

「へ? いや、案内しようかと」

思わず眉間にシワが寄る。


一人のほうが楽なんだがな。


「迷惑……でしたか?」

濡れた子犬のような顔で覗き込まれる。

「いえ、全くそんなことは」

俺は笑って返した。

「ただ、あなたの時間を取らせるのが申し訳なくて」

「優しい方、ですね」

彼女はくすくすと笑った。


図書館のドアを開け、二人で通った。

――

少し古びた公民館のような場所。

室内は紙の匂いで満たされている。それを肺の奥まで吸い込む。


彼女は棚を撫でながら言った。

「火、水、風、地。これが魔法の種類です」

彼女の指先に合わせて、髪がたなびいた。


「……魔法4種類しかないんですか?」

「そう。ちなみに、私は風」

「風魔法って何ができるんですか?」

「風を送ること」


胃の底が重くなる。

「……魔法って、便利ですか?」

「あんまり」


――じゃあ、魔導免許はどうなる?

使わない力に、更新制度だけが残るはずがない。

残る理由があるなら、「使わせるため」ではなく、「縛るため」だろう。


だから、この街は俺にとって当たり前の姿をしていた。科学を捨てずに

魔法が便利なら、町並みは変わるはずなんだ。


「でも、あなた魔法で俺のこと浮かせてましたよね?」

「まあ、私は――」

「あ! あったよ。これ!」

彼女は弾かれたみたいに、本棚から一冊引っ張り出した。


――

絵本

「こどもでもわかるまほう」

――

紙の上で、絵本のキャラクターが笑った。

……は?


というか魔導書って、これ?

奥歯で怒りを噛み潰す。声が漏れそうになる。


「あの、ほかの本ってあります?」

「あ、あれ? これじゃだめ?」

彼女ははにかんだ。


そんな時――


ガタガタ、と一つの本が震えてだした。

スポン、と本棚から抜け出す。

床に落ちるやいなや、不規則に跳ね回る。背表紙で本棚を叩くと、紙片で吹雪が巻き起こる。


彼女は淡々と語った。

「ありゃ、付喪化しちゃってますね。たいていはすぐ収まるので……」


ガタン! ガシャン!


「……あ、この子は違うかもですね」


彼女は指を立て、白く輝いた。

風が巻き、暴れる本だけが宙に巻き上げられる。

ページが風でめくれて、パラパラと音を立てる。


物音を聞きつけ、司書が駆けてきた。事情を話す。

その本は司書の腕の中でも跳ねようとした。

「こちらは蔵書本ですね……」

司書は、にこやかに言った。

「ご安心ください。こちらで処分しておきますので」


その本は、ほんの少しだけ震えた気がした。


――礼を背に、俺たちは図書館を後にした。


彼女は声のトーンを落とす。

「付喪神って長いこと大切にされた物がなるんですよ」

「思いのエネルギーが蓄積するんですって」

「普通はそのエネルギーだって、すぐ消費しちゃうもの、なんですけど……」


あれだけ動けたということは、それだけ大切にされてた裏付けだ。

それでも、人は邪魔なら――処分するんだ。


この空気が嫌で、話題を変えた。

「それにしても、あなたの魔法はすごいですね」

彼女の眉はわずかに動いた。

「ええっと…… 俺、名前って聞きましたっけ?」


彼女は肩を落として答えた。

「卯月 桃です。桃でいいですよ」


「卯月さん、普段は何を?」

魔導士と長くいる口実が欲しかった。

「ペットショップの店員をやってます」

「もし、よければ…… 職場、見学させてもらえませんか?」


ここで別れておけば良かったんだ。

「君」を殺そう、だなんて思わずに――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ