その15
しばらく経ち、それでも桃の元気は戻らない。
時間が解決するのかもしれないが、どんどんやつれているように見える。
凛は力をこめて祈るように言った。
「祥也。もし私がやりすぎたら、また止めてくれ。」
そうして、膝を抱えて座る桃に近づいた。
凛は少し体を強張らせた。
「よう、桃。ご機嫌そうだな、プリンセス。」
桃は顔だけゆっくりと凛の方に向けた。
「凛、さん。……ごめん、ね?」
「はっ、何がゴメンだよ。さして悪いとすら思ってないだろ。」
空気が固まった。
咲希が唇を噛んだ。
「いい加減、意地張るのをやめろ。不愉快だ。」
俺はつばを――うまく飲み込めない。
「ごめ……」
そこまで言った桃の口を手で押さえた凛。
舌打ちをした後、まっすぐ桃を見て言った。
「あの時は――わ、私が、悪かった。」
「……頭に血が上って、お前の気持ちにまで、気が回らなかった。」
「お前が今、そんな思いをしているのは――私の責任だ。」
「本当に、すまなかった。」
凛はたじたじになりながらも、深々と頭を下げた。
「いや、あれは私が……」
「桃。」
俺はできるだけ優しく言った。
「謝らずに、答えてあげて。」
「ごめ……ッ」
そこまで聞いて凛は一歩踏み出しかけた。
「凛。」
凛は怒りをこらえ、再び向き合った。
「わ、私はだいじょ――」
「逃げんな。――頼む、から。」
凛が言葉を被せた。
桃は、初めて凛と目を合わせた。
桃の歯ぎしりの音がした。
そうして立ち上がり、凛を引っ叩いた。
「あなたのせいで……」
「あなたが!! あんな事を言ったから!!!」
「私の……魔法、が……っ!」
そこまで言って桃は大粒の涙をこぼした。
彼女は下手くそに泣き続けた。
……
咲希は言った。
「さて桃。何か食べたいものはないですか? 凛が奢ってくれるらしいです。」
凛は目を細めて咲希を睨むも、何も言えない。
「……お寿司。」
桃は少しブスくれて言った。
「ですって所長。さあ回らない寿司の出前のために車を走らせてください。」
「わかったよ! 行きゃいいんだろ?! 行くぞ、咲希。」
二人は玄関から買い出しに行った。
……桃と二人っきり。気まずい。とても。
桃がつぶやくように喋った。
「ねぇ。なんであの時、」
「祥也くんは怒ってくれたの?」
俺は伏し目になって言った。
「……別に桃のために怒ったんじゃなかったんだよ。」
「ただ連れて来といて、当たってくる凛にムカついただけ、だよ。」
「それも、そう、かもね。」
桃は短く息を漏らした。
ガチャリ
玄関の鍵が開く音に驚き、俺は少し飛び跳ねた。
「さて! 高級寿司のお時間です!!」
「見てください、これ! 高級桶です!」
豪華絢爛な寿司桶が机の上に置かれる。
大トロの油がきらりと光り、イクラやウニが艶めいている。
……もはや下品だ。
「なあ、お前らは程度ってものも知らんのか。」
「謝意の心だろうがよ。」
「差し入れだって豪勢すぎると引くだろ。」
「おい。祥也。なぜ、イクラとウニを取り分けた?」
「いや、四つしかなかったし。」
「違う。二つは私のだ。後の二つを分け合え。」
「謝意の心はどこ行ったよ。」
「ほ、本当にクズですね、あなた……」
桃は悔しさをごまかすみたいに、鼻で笑った。




