その13
仕事終わり。
ペットショップに向かおうとするも、卯月さんにかける言葉なんてまだ考えていない。
とりあえず、コンビニで差し入れを買っていくことにした。
――コンビニ店内。
軽快な入店音がなり、自動ドアが開いた。
中では何かのキャラクターが自動車免許の宣伝をする音声が流れていた。
やばい。あの人が何好きかとか全然知らない。
流石に猫買っていくわけにもいかないし。
女の子が好きそうな物……
諦めて咲希に電話した。
「はい? 女の子が好きそうな食べ物?」
「知りませんよそんな物。そんな一般論を私に…… あ! 凛! それ私のアイス!!」
「おコタで暖まって食べようとしてたの!!」
電話を切った。
アイス……
いや、流石に12月にしていい差し入れではない。
凛に電話を掛けてみた。
「は? 私が好きなお菓子?」
「……まあ、モナカは美味しかった。」
電話を切った。
どうやら咲希が食べたかったのは、モナカアイスらしい。
ひとまず、どら焼きやたい焼き、大福を買っていくことにした。
ついでにモナカアイスも入れておいた。
いらないと言わせて、俺が楽しむ算段だ。
……遊んでる場合じゃない。
いい加減、ペットショップに向かった。
――ペットショップ。
相変わらず動物がわちゃわちゃとしていて、心が癒やされる。
と同時に鼻がムズムズしてきたので、早いとこ卯月さんを見つけなくては。
周囲を見渡すも、卯月さんの姿は見えない。
店員さんに聞いてみた。
「あ、彼女辞めましたよ?」
「ほら、魔法が使えなくなったとかで。心配してたんだけどねぇ……」
その店員に映ったのは好奇の目、だった。
肌が粟立ち、同時にこの店員に対する怒りが湧いてきた。
この予感が事実に変わる前に――
急ごう。時間の問題かもしれない。
卯月さんにLINEで連絡を入れた。
既読はつかない。
電話をした。
かからない。
車内に差し入れを放り投げ、車を全速力で走らせた。
赤信号で車が止まった。
苛立ちを抑え、凛に電話を掛けた。
「凛! やばい! 桃、ペットショップクビになってる!!」
「あ? 待て、なんだと?」
俺は彼女の言葉を少し待った。
「……なるほど。そういう感じか。」
俺の危機感が伝わったようだ。
「今、桃の家に向かってるとこだ。」
「あいつ、一人暮らしか? そもそも実家の可能性は?」
「一人だし、あれの性格上、親に頼らないような気がする。」
「わかった。もし見つけたら家につれてこい。仮眠室を開けておく。」
電話が切られた。
――卯月宅前。
インターホンを鳴らしながら、叫んだ。
「卯月さん。卯月さん!」
「桃! 居る? 居ます?!」
返事は返ってこない。
試しに玄関のドアノブに手を掛けた。
……鍵がかかっていない。
どれだけ不用心なんだ、あいつは!
「卯月さん! 入りますよ!」
そう言いながら、「ある」覚悟を決め、部屋に入った。
室内は真っ暗だった。カーテンも締め切ったまま。
換気もあまりされていないのか空気が淀んでいる気がする。
玄関には、トートバッグが乱雑に捨てられていた。
リビング。台所。浴室。
そうして、彼女は寝室にいた。
彼女はこちらを見て、ゆっくりと瞬きした。
彼女の意識は朦朧としていた。
「よ、よかった…… 無事だった……」
力が抜け、膝から崩れ落ちる。
床にあったカップ麺の入れ物が、ぐしゃりと潰れた。
正直……
「縄に垂れ下がった彼女」ぐらいの覚悟はしていた。
杞憂に終わって本当によかった。
「桃、大丈夫? 話せる?」
返事はない。それでも聞こえてはいそうだ。
「凛たちのとこに行こっか。」
彼女をゆっくりと持ち抱え、車に乗せた。
……誘拐でもしてる気分だ。
――探偵社。
「桃。大丈夫そうですか?」
咲希は不安げに聞いてきた。
「……なんで今ここに居るのかもわかってなさそうだった。」
咲希は自分の頭を掻きむしった。
「何にせよ。」
凛は言った。
「お前は一旦帰れ、祥也。」
「とんでもない顔してるぞ。」
そう、らしい。自覚はなかった。
「一回帰って寝ろ。桃は私たちに任せて。」
この事務所は彼女たちの私室も兼ねている。
だから好都合、ではある。
その言葉に甘え、自宅に帰ることにした。
「また明日ね。」と桃に掛けた言葉は虚空に消えていった。
自分の車内には、差し入れがあった。
それを力いっぱい蹴り飛ばした。




