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その11

「さて、まあとりあえず連絡先でも交換しますか。」

俺がキョトンとしていると、咲希が苛立ちを見せた。

「スマホですよ、スマホ。充電でも切れました?」


すっかりその事を忘れていた。なぜ、だろうか。

「……あの、俺スマホ、ない、です。」

だどたどしく言った。


2人の呆れ返る表情がよく見えた。

「は、はぁー。現代人においてスマホ持たず生活できる人もいるんだ……」

「なんか訳あり気な顔してるが、――依存でもしてたか?」


「それ」を聞いた瞬間、自分の中で何かがほどけた。


スマホ依存。


視界が揺れて、頭の奥で何かが弾けた。


――

タプタプ。

俺はスマホをいじっている。


タプタプ。

スマホからよくわからない電子音が聞こえる。


タプタプ。

――指を止めたい。


タプタプ。

画面の中で誰かが楽しげな事をしている。


タプタプ。

一体、こうやって何年経ったんだろうか。

――


自分の呼吸を感じない。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……っ!」

耳だけが、荒い息を拾っていた。

肩を掴まれ叫び声がした後、視界が暗転した。


――


気づけばベッドの上だった。

ガチャリ、意識が戻ると共に咲希が水を持って部屋の中に入ってきた。


目をハッとさせた咲希。

「……あら? 起きました? 少しは平気です?」

咲希に渡された水を飲みほした。

「……だいぶね。ここは?」

「事務所の仮眠室です。事務所の部屋を案内する前に使うことになるとは……」

咲希はなんともいえない顔で笑った。


話し声が聞こえたのか、凛も入ってきた。

「なんだお前、何があった? パニック障害持ちか?」

「の割にゃ、グール戦の時平気そうだったしな……」

凛は心底不思議そうな顔をしていた。


「……記憶喪失なんだよ。いくつかトラウマが抜け落ちてる。」

「トラウマの記憶喪失ねぇ。」

凛は首をかしげた。

「まあ、都合良くも感じるが、あり得る話か。」

……ほんと勘がいいな、こいつ。

流石に、四柱戦まで巻き込みたくはないから、すべてを話すわけにもいかない。


「まあ、とりあえず。」

軽く頭を下げ、凛にお願いをした。

「とある場所まで送ってくれない?」


……俺、自宅あったわ。


――


俺は凛の車から降りた。

「……ここであってんだな?」

凛は少し不安げだ。

「大丈夫。車もあるから少ししたら戻る。」

「へぇ……」

咲希が車の窓を開け、外を覗き込む。

「ここが祥也さんの家ですか。なかなか良さそうなとこじゃないですか。」

「では」と言いながら降りようとする咲希を、凛が止めた。


不思議そうな顔をしている咲希。

「どうしました? お土産ほしいの?」

「違うわ。私達は帰るんだよ。」

「え? なんで? 祥也さんの部屋見てからでも……」

「あああぁぁぁーーー」

車が発進し、咲希の声が遠のいて行った。


――

鍵は開いていた。

ガチャリ、と開け慣れた、それでも初めて触れるような感覚で、玄関のドアを押しのけた。


決まったように靴を脱ぎ、気づくと玄関に鍵をかけていた。

多少ゴミは残っていたが、室内は思いの外片付いていた。

スイッチに手が伸び、電気をつけた。――遅れて、リモコンをここに置いた記憶が戻る。

冷蔵庫の上の酒瓶が目に止まり、舌の上に甘い味がよみがえった。

座椅子のへこみが体にあう。ここで日に浴びていた。


スマホがベッドの横に置いてあった。

これを無意識で取ろうとする自分が、何より気持ちわるかった。


――財布。

――車のキー。


それらを見つけた後、ベッドで少し横になりボーっとする。


はて、と思い、自分の通帳口座を確認する。

通帳にはこんな記載があった。


――

24.1.12 振込  ―――  *9,999,999 *9,999,999

24.1.28 振替 *13,526  ―――  *99,86,473

24.2.28 振替 *11,000   ―――  *99,75,473

24.3.28 振替 *11,000   ―――  *99,64,473

24.10.12 振替 *9,999,999   ―――  *2,850,7

――


引き落としの額と残高が、どう考えても噛み合っていない。

それでも通帳は、正しい顔をしている。


――プチュン。


「一応、説明しとくけど。」

アウトライアーは言った。


「僕が通帳書き換えておいたから。」

「大丈夫だ。「代償」はもうもらってある。」


――プチュン。


……代償。

身の毛がよだった。

吐き気だけがきて、――考えるのをやめた。


ひとまず、

家をゲットした。

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