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その10

カシャカシャカシャ、と連射音。

咲希はスマホを確認しながら呟いた。

「うん。大丈夫。これなら逃げられない……」


「ひとまず、ここから出ませんか? 御三方。」

「確たる証拠は押さえました。――あの医者は、もう逃がしません。」

ヒラヒラ、と咲希はスマホを振った。


深いため息をつきながら、凛は話した。

「賛成だ。さっさと出よう。」

凛は壁に自分の刀を押し付け、そのまま沈めた。


……どういう魔法なんだ?


「凛。やばいです。なんか注目を浴びてる気がします。」

「そりゃこんな汚れた奴らが病院服で闊歩してたらな。」

「……無視でいいんだよね?」

「冗談きついぞ? それ。」


――


「祥也。私は限界だ。運転変われ。」

車のキーを渡された。

俺だって限界なんだけどな……


俺は車を走らせる。

ジャリジャリ、と小石をタイヤが噛む音を感じながら、探偵社へと帰路を走る。

信号の赤ランプが光り、ブレーキを踏む。

車体の揺れよりも、何故かフロントガラスについた雨だれに意識が行った。

……雨なんて降ってたんだ。


「というか凛。浮気調査、なんて報告するつもりです?」

「まあ、夫人が不知火医師に感じていた不信感が浮気と推定したんだろうが、」

「ぶっちゃけ知らん。後で考える。」

疲労からだろう、投げやりだ。


「というか、なんでグールは死んだ?」

凛は助手席で体を楽にしながらつぶやいた。

「咲希。お前からは何が見えた?」

「いや。グールが突然崩れたようにしか……」


――情報なし、か。


「制限時間が来たとかじゃねぇの? グールにも活動可能時間があったみたいな。」

「そんな間抜けな口封じがあるかねぇ?」

うーん、と三人で首をひねる。

ふと、自分の手が冷たく濡れていた事を思い出す。

雨の冷たさではなかったな……


「まあ、いいや。寝る。」

「あ、あと」

「桃。あれは私が悪かった。」

凛は謝罪の言葉を吐き捨てるように言った。


「い、いや、あれはどう考えてもあの場で魔法が出なくなった私が……」

卯月さんは縮こまって喋っている。


「うん? 凛?」

咲希が凛の顔を覗いた。

「……あ、これマジ寝です。」

ま、マジか、こいつ。言うだけ言って、寝やがった!


「桃もあんまり気にしないでいいですよ。」

「当の本人があんな感じなんで。」

桃の様子は変わらない。

「うん。まあ、そうだね。」

「大丈夫。うん、ごめんね? ホントに。」


「……本当に大丈夫です?」

咲希は桃の顔色を注意深くうかがった。

「うん。大丈夫。大丈夫だよ、咲希ちゃん!」

無理に語気を上げているように感じた。

「もー! 優しいんだから♡」

そう言いながら、咲希を膝に乗せる桃。


「すみません。これ暑苦しいんでやめてもらえます?」

「だめ。」

咲希は諦めたように、体を桃に預けた。


――探偵社前。


凛はまだ眠りこけていた。

「ああ、いいですよ。そこに置いといて」

もちろん「これ」は車内放置だ。


卯月さんが目を合わせず、指先をいじっている。

「咲希、後で探偵社行くから先行っててくれ。」

咲希はそそくさと扉の奥へと消えていった。


「佐藤くん。ありがとう、ね?」

卯月さんはぎこちなく笑う。

「何がです?」

「いや、怒ってくれてありがとうって」


彼女は改まってお辞儀をした。


「あれのお陰で私は救われた、よ?」

「うん、大丈夫。これは嘘じゃない……」

彼女は自分の気持ちを確認するように呟いた。

でも、あんなもので救われるわけない、と俺は思う。

あんなものはただ感情の赴くままに、ただの自己都合を吐きつけただけだ。

「じゃあ、またね!」

「ペットショップ、また遊びに……動物アレルギーだから駄目か。」

彼女は笑いながら、手を振り去っていった。

それでも振る手が震えていた。


「なんだ? あいつを狙ってんのか?」

車の中から起きてきた凛が、肩に手を掛けてきた。

「そう見える?」

「端から見ればいい感じじゃねぇの? 知らねぇけど。」

俺は鬱陶しげに凛の手を払い、二人で探偵社へと向かった。


日雇い金をください。上乗せでお願いします。


――探偵社。

扉を開けるとコーヒーの香ばしい匂いが立ち込めた。

咲希が入れてくれたようだ。


「ありゃ。桃、帰っちゃいました?」

「うん。お金は俺から渡しとくよ。」

俺はコーヒーを啜る。


凛が膝を揺らし、指を鳴らしている。

……トイレ?


「いや、祥也。察しろ。こういうのは流れだろ。」

「さ、流石に私でもわかんないですよ?」

咲希は困惑の表情を浮かべ、凛に耳を近づけた。


何か小声で話し合った後、咲希は鼻で笑った。

「ま、まじで素直に言えばいいだけなのに……」


咲希は咳払いを一つ。

「祥也さん。もしあなたが良ければうちで働きませんか?」

俺は何度も目をパチクリとさせた。

「凛が、生意気なやつがほしい。って」

「私も本気で喧嘩してる凛、初めて見ました。」

咲希はくすくすと笑っていた。


「おら、迷ってるふりしてないで。さっさと来い、祥也。」

「仕事が残ってんだよ。」

凛はすこし気恥ずかしげに言った。


……まあ、願ったり叶ったりだ。

こんなことを思うのは不謹慎なんだろうけど、今日一日、充実してたんだ。

本気で話し合えたのは俺だって初めてだった。

そして都合もいい。


「これからよろしくお願いします。」

そうつぶやき、改まってお辞儀をした。


俺は探偵をやる。そう決めた。

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