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第9話 ヴァンパイアの始祖

(私は何もわかってない、何も知らない。ヴァンパイアのことも、それにラインハルト様のことも)


 そんな時、エリーゼは視線の先にあったネックレスを見つける。


(お母様にもらったネックレス……)


 誕生日の記念にもらったネックレスを手に取ると、ふいに家族のことを思い出した。


(お父様……お母様……)


 家族で過ごした日々を思い出したと同時に、先日の火事のことを思い出す。

 自身がヴァンパイアに襲われ、そして目の前で焼けていく屋敷を見た時のことを。


 エリーゼは恐ろしさを思い出し、震える自分の体を抱きしめた。

 手が震えてネックレスが床に落ちる。


 その時、彼女の脳裏に「彼」の背中が思い浮かぶ。


(そうだ、でもラインハルト様が助けてくださった……)


 彼の血で汚れた手やシャツ、そして赤い瞳を思い出した。


(私はきっと、もっと知らなければいけない。ヴァンパイアのことも、ラインハルト様のことも)


 エリーゼは決意を胸にベッドから立ち上がると、扉を開けた。


「クルト、いますか?」


 彼女が呼んだ直後、すぐさま彼は姿を現した。


「いかがいたしましたでしょうか」

「少し聞きたいことがあるの、ここではなんだから中でいいかしら?」

「もちろんでございます」


 そう言って二人は部屋に入ると、エリーゼは早速彼に告げる。


「ヴァンパイアについて教えてください。それと、ラインハルト様のことについても」

「私では未熟な説明となってしまいます」

「それでも構わないです! 少しでもいい。あなたから見た景色、それから知ってることを教えてほしいです」


 クルトはエリーゼの頼みを聞いて思案した後、「かしこまりました」と返事をした。

 彼はどこからゆっくりと語り始める。


「ヴァンパイアは何万年も生き続けている種族です。ヴァンパイアの王はその時代で最もヴァンパイアの血が濃い者がなります」

「では、ラインハルト様は今、最も血が濃いヴァンパイアということですか?」

「はい。そして、王は何千年とその座についていますが、ラインハルト様は二代目の王となります」


(初代、じゃない……?)


 エリーゼの疑問を感じ取ったクルトは、続けて代替わりについての話をする。


「初代……つまりヴァンパイアの始祖は人間の手によって封印され、その生涯を終えました」

「ヴァンパイアは不死身ではないということ?」

「人間からすれば不死身に近い存在、といえるでしょう。しかし、始祖は人間の黒魔術によって一生動けない体とされました。そのため、ヴァンパイアの王の継承として自らの心臓をある青年に捧げました。その青年がラインハルト様です」


 初めて聞くヴァンパイアの歴史とラインハルトが王になった経緯を知り、エリーゼは驚く。


「それで、ラインハルト様は王となったのですか?」

「はい、そして最初は人間を恨みました。始祖の仇ともいえる存在ですから。しかし、ラインハルト様は徐々に人間とヴァンパイアの共存の道を探り始めます。そして、今から約700年前の王族と密約を結び、人間の貴族社会へとヴァンパイアが入り込むようになったのです」


(その密約の結果が、今の貴族社会でヴァンパイアと人間がいる現状ってこと?)


 エリーゼは気になっていた質問をクルトにする。


「でも、どうしてラインハルト様は共存を考えるようになったのですか?」

「ラインハルト様のお姉様が人間に恋をしたのです。しかし、密約前の当時、ヴァンパイアと人間は戦争状態にあり、恋が許されるはずもありませんでした。そしてお姉様はある日、自ら命を絶ったのです」

「命を、絶った……」

「私が話せるのはここまでとなります」


 エリーゼはクルトに礼を言うと、頭の中を整理する。

 初めて知る大きな歴史に彼女は眩暈はしそうなほどだった。


(そんな過去が……)


 ふいにクルトが言った言葉が思い出された。



『ラインハルト様は徐々に人間とヴァンパイアの共存の道を探り始めます』



(お姉様のことがあったから共存を考えたの? ラインハルト様の考えがわからない……)


 エリーゼは何度も何度も聞いた話を咀嚼して理解しようとした。


(ラインハルト様の気持ちが知りたい。それに、彼を支えたくなった……でも、何でそう思うんだろう……)


 不思議な感覚と気持ちの芽生えに、エリーゼは驚きつつもその日は目を閉じて休むことにした。




 一方、ラインハルトは自室でクルトからある報告を受けていた。

 その言葉を聞き、彼は目を細める。


「元老院が動きだしたか」

「はい、何やら怪しい動きをしております」


 ラインハルトは頬杖をついてふっと微笑むと、低い声で呟いた。


「大丈夫。害を成すようなことになれば、握りつぶす。それだけだ」


 ラインハルトは机にあった書類をゆっくりと破った──。

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