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第6話 真っすぐな想い

 ラインハルトは日が落ちる頃に目を覚ますと、ゆっくりとその体を起こした。

 隣には彼が見繕った服を着たエリーゼが安心した顔で眠っている。

 ラインハルトはゆっくりと彼女の頭の先から髪をなでるように触ると、そっと起こさないようにベッドから出た。

 ドアを開けて執務室のほうに足を向けるとその先にはアンナが目を見開き立っている。



 彼女はひどく顔をゆがめると、その場でラインハルトが来るのを待つ。

 両者がすれ違おうというところで、彼女はぼそりと呟いた。


「あの方の部屋で一晩過ごしたのですね」


 それに対してラインハルトは表情を変えることもなく告げる。


「だったらどうなんだい?」


 ラインハルトはアンナの横を通りすぎて、自室へと入った。

 すると、突然アンナが彼に背中から勢いよく抱き着く。


 彼女の抱き着かれてもラインハルトは何も言わず、ただじっと立ち尽くす。


「アンナは納得できませんっ! あんな女が、ラインハルト様の妻になるなんて! どうして、どうして……子爵令嬢で人間だったようなやつなんかを……」


 彼女の叫びにラインハルトはただ一言だけ返す。


「彼女を愛しているから。これで納得できるかい?」

「できません!!」


 アンナは彼の正面に回り込み、じっと彼の赤い瞳を見つめる。

 しかし、ラインハルトは無表情のままで何も言わない。


「吸血したのですか?」

「いや、彼女にはしていないよ」


 その言葉を聞いてアンナはそっと洋服の首元をめくると、首筋を露わにして言う。


「アンナの血を飲んでください」

「できない」

「どうして……」

「君の血をもらうにふさわしい男ではないよ、僕は」


 アンナは彼の胸元に顔をうずめて、叫び続ける。


「なんでっ! なんでこんなにもずっと、ずっと好きなのに一度も求めてくれないのですか!?」


 心からの叫びを聞いてもなおラインハルトは表情を変えず、冷静に返答する。


「さっきも言った。僕は君に相応しい男ではない」

「アンナは好きです! アンナはずっと、いつでもラインハルト様だけを見続けてきました。あなたを屋敷で見たあの日からずっと、ずっとあなただけを……好きなんです。私じゃだめなのですか?」


 すがるように涙を流して訴える彼女をそっと引き離すと、ラインハルトは諭すように言う。


「僕はアンナのことを心から信用している。それはクルトも同じだよ。僕をずっと支えてくれている。けれど、僕の隣に立つのはエリーゼしか考えられない。ごめん」


 『信頼』という耳ざわりの良い言葉で拒絶するラインハルトの言葉に、アンナh唇を噛みしめて俯く。


「私のこと、特別に思ってくださることはないのですね」


 アンナが声を震わせて言った言葉を聞き、ラインハルトはじっと彼女の目を見ている。

 嬉しいでも悲しいでもない、ただひたすらに何も感情のない瞳で……。


「わかりました」


 アンナは息を一つ吐いて言うと、ラインハルトの部屋を去った。



 金色の長い髪は泣きはらした彼女の目を隠す。

 部屋を出て真っすぐ自室へと足を進めた。


 廊下で弟がその様子を静かに見守っていたことも知らずに──。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


【ちょっと一言コーナー】

恋愛に苦しむ姿を見ると、心がきゅっとなります……

アンナ、魅力的に伝わってたら幸いです。


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