第5話 「しばらくこうさせてくれないか?」
ラインハルトは部屋の扉を開けて姿を現した。
「気分はどうだい?」
「問題ございません、ありがとうございます」
エリーゼの体調を気遣った彼は、ベッド脇にある椅子に腰かけた。
「あの、グラーツ公爵さ……」
「ラインハルト」
「え?」
彼はエリーゼに柔和な顔を見せ、優しい声で言う。
「ラインハルトと呼んでほしいんだけど、だめかい?」
こんな見目麗しい見た目で、瞳で見つめられて断れる女性はそうそういないだろう。
エリーゼもこくりと頷いて返事をする。
「いえ、ぜひ呼ばせてください。ラインハルト様」
そうエリーゼが口にすると満足そうにラインハルトは微笑む。
それと同時立ち上がり、彼女の顔を自分の胸元へ引き寄せた。
「ラインハルト様?」
「すまない、仕事で疲れたんだ。しばらくこうさせてくれないか?」
少し戸惑ったが自分で役に立てるならばとエリーゼは胸をかす。
「私でよろしければ」
自然と彼の背中に腕を回していて、大きな子どもを見ているような感覚になった。
けれども確かに体は男の人のそれで、ドキッとする。
(甘い香りがする……)
エリーゼは彼の色香に酔ってしまいそうになる。
目を覚ますように彼女はラインハルトに質問する。
「そういえば、先程アンナちゃんとクルトくんにに会いました。お二人はラインハルト様にお仕えしているのですか?」
エリーゼの質問に答えるべく、ラインハルトは抱きしめていた腕を解放した。
「アンナとクルトは僕の面倒を見てくれているんだ。二人ともヴァンパイアだけど、伯爵令嬢と伯爵令息でもある。自分たちの屋敷もあるんだ」
「貴族のご令嬢とご子息……」
王の世話をするほどの彼らであるから、高い爵位を持っていることは納得だった。
「そんな方々が私のお世話をする方でよろしいでしょうか?」
「僕はあまり人を信用してなくてね、屋敷にも僕と二人しかいないんだ」
(そんな少ない人数で……)
「でも、エリーゼが来てくれたから、この屋敷もにぎやかになるかもしれないね」
「そんな子どもみたいには、はしゃぎません……」
エリーゼのむすっとした顔を見て、ラインハルトはくすりと笑った。
笑われたことが少し心外だったエリーゼは訪ねる。
「そんな笑わなくても……」
「いや、君がはしゃぐ姿を想像したら面白くてね」
「ですから、はしゃぎません!」
先程よりも大きな声で否定するエリーゼを見て、もっと面白くなったラインハルトは笑みを零す。
そして、少し真剣な表情になった彼はエリーゼの頬に手を添えて言う。
「でもこれだけは覚えておいてほしい。僕は何者からも君を守る。君を裏切らない」
(ずるい……そんな顔でそんな甘い声で言われたら、何も言い返せない……)
エリーゼは恥ずかしさで顔を背けてしまう。
「おや、こうされるのは嫌かい?」
「いえ、そういうわけでは……ですが、初めてそのこんな風に触られて、緊張して……」
その言葉をきっかけに、エリーゼはベッドに押し倒された。
「ラインハルト様っ!?」
「ふふ、可愛いね。初めてなんて男の前で軽々しく言うものではないよ」
ラインハルトはエリーゼの額にちゅっとした後、彼女の首元をペロリと舐める。
「きゃっ!」
「くすぐったい? 食べちゃいたい……」
ぞくりとするような色気のある声で囁かれて、エリーゼは動けなくなる。
照れて硬直してしまうエリーゼを彼は何度も髪をなでてあやすようにすると、そのまま彼女を抱きしめて目を閉じた。
「ラインハルト様?」
「こうしてもいい? 今日は傍にいたいんだ」
(どうしよう、こんな状況でドキドキして、眠れない……)
自分の腕の中であたふたする彼女の様子を、本当は目を覚まして楽しんでいたラインハルトだった。
ヒロインだけには激甘で、元老院の皆さんへの態度とは全く異なります。
彼の溺愛ぶりは加速していく……。
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