第3話 冷酷公爵の花嫁~Sideラインハルト~
明かりがそっと消えると、エリーゼへ優しい眼差しを向けた後、ラインハルトは部屋を去った。
部屋の扉を静かに閉めて廊下に出ると、そこには一人の少年が立っていた。
彼は深々とお辞儀をして言う。
「ラインハルト様、元老院の皆様がお部屋にいらっしゃっております。どうなさいますか?」
金髪碧眼という明るい見た目に反し、彼はどこか人形のような落ち着いた表情である。
そんな彼はラインハルトの返事をじっと待っている。
「ありがとう、クルト。顔を出すと伝えてくれ」
「かしこまりました」
クルトと呼ばれた少年は手を胸の前にかざながら、もう一度深々とお辞儀をした。
そして、ラインハルトは自室へ寄った後、元老院の者たちが待つ一室へと向かう。
(元老院の老人か……おそらく昨夜のことだろう)
先程エリーゼへ向けていた顔とは違い、冷たい表情で暗く長い廊下をゆっくりと歩く。
ラインハルトが「昨夜」と言っているのは、日付が変わる前の火事の事である。
エリーゼの実家、ランセル子爵邸のことだ。
ラインハルトはようやく会議室の前にたどり着くと、扉を開けた。
「お待たせ」
中にいる人々へと挨拶をする。
その挨拶と同時に元老院と呼ばれる数人の年老いたヴァンパイアたちが恭しく礼をした。
彼らの身なりは高貴な貴族のそれであり、普通の人間と見分けがつかない。
部屋の一番奥は一段高くなっており、そこいは赤い手触りの良い高級生地の椅子がある。
ラインハルトはそこへ向かうと、長い足を組んでひじ掛けに頬杖をした。
それを合図に彼ら元老院の老人のうち、一人がラインハルトに話しかける。
「ラインハルト様、本日もお変わりなくお元気そうでなによりでございます」
優雅に一礼しながら定型文のような決まり文句を言う老人に、ラインハルトは冷たい声で言う。
「形式はいらない。要件だけ言え」
刺すような視線を老人へ向けると、老人は一気に顔がこわばった。
「申し訳ございません、それでは本題に……。ランセル子爵邸が焼失したというのは誠でしょうか?」
「ああ」
老人の問いかけにただ一言返事をした。
いつも通りと言った様子でその返事を聞くと、老人は次の言葉を紡ぐ。
「エリーゼは、どうなったのですか?」
その言葉にラインハルトの眼光はより鋭くなった。
そして、老人に向けて先程よりも冷たい氷のような声で忠告する。
「テオ、一つだけ忠告しておく。エリーゼは私の妻となる女性だ。それ相応の態度を示せ」
その言葉にテオは頭を下げた。
「……かしこまりました。訂正いたします。エリーゼ様はご無事でしょうか?」
「ああ。私の屋敷にいる」
「なっ! こちらにいらっしゃったのですか! それに、ラインハルト様の妻となる話は真実でしょうか?」
「クルトを通して伝えたとおりだ」
ラインハルトはそう言い終えると、足を組み直して背もたれに寄りかかる。
「おやめください! あの娘だけは……」
「もう決めたことだ。それに王は私だ、お前たちに口出す権利はない」
「……かしこまりました」
「私は仕事がある」
そう言ってラインハルトは話を切り上げて立ち上がった。
「お待ちくださいっ! ラインハルト様っ!!」
ラインハルトはテオの制止を聞くこともなく、早々に部屋の扉へと向かった。
傍に控えていたクルトが扉を開けると、そのままラインハルトは部屋を出て行く。
「では、皆様、こちらで終わりでございます」
クルトはそう言うと、ラインハルトと同じように部屋を後にした。
ラインハルトがいなくなった部屋に元老院の老人たちのみが残された。
沈黙破ったのは、テオだった。
「くそっ! あのガキ、いつか必ず……」
テオは唇を噛みしめ、悔しそうにしていた──。