第13話 王と王妃の誕生
一方、ラインハルトは屋敷で来客を待った。
「アンナをエリーゼのもとへ向かわせたが、さあ、もう出てきたらどうだい? ここに来て私を潰すつもりなんだろう?」
その問いかけに、元老院の老人三人が姿を現す。
「おや、潰される覚悟がおありですか? ではお望み通りにして差し上げましょう」
その目にはもう彼を敬う様子はなく、ラインハルトの息の根を止めにかかってきていた。
クルトはさっとラインハルトを守るように前に出てナイフを構える。
「クルト、私は大丈夫だから下がりなさい」
「ですが……」
クルトはそこまで言って口を閉じた。
ラインハルトの瞳の奥底にある怒りを見て恐怖を感じたからだ。
「さて、王と王妃に刃を向けるということがどういうことか、理解はしているね?」
「はい、もちろんでございます。あなた様のお命を奪うときを今か今かと待ちわびましたよ」
「そうか、エリーゼに手を出したのは愚策だったね」
「ああ、そうでした。王妃様はもうこの世にはいないのではないでしょうか?」
そう告げると、老人は透視の力でエリーゼの様子を見た。
しかし、そこに映っていたのはエリーゼのヴァンパイアとして覚醒した姿であった。
そしてその傍らには老人が倒れていた。
「なっ! まさか、なぜこんな力が……」
「君たちも知っていたんだろう? エリーゼの『稀血』のことを。そして彼女の両親を唆して亡き者にしようとした」
「そうだ、薄汚い人間どもの、あの先代の王を封印した人間の生まれ変わりだ」
「ああ、そうだね。でも、もう彼女はヴァンパイアだ。それも王の血を体内に含んだ」
「まさかっ! それが狙いで……」
ラインハルトは老人のもとに近づくと、そっと告げる。
「さ、君たちの悪事もここまでだね」
「王があんな汚らわしい人間だった者と婚姻してその先も生き続けるなど、あってはならない!」
「君たちは何もわかっていないね」
「これはヴァンパイアと人間の新しい共存の形。全ては争いをなくすため」
ラインハルトは一気に老人たちに距離を詰めると、素早く身を翻して自らの鋭い爪で倒していく。
決着はあっという間だった。
ラインハルトは倒れた老人たちには目もくれず、月を見て呟く。
「姉さん、全て終わったよ。これで、新しいヴァンパイアと人間の世界が始まる」
「クルト」
「はい……」
「全部終わった、エリーゼのもとに向かおう」
「かしこまりました」
ラインハルトは返り血を浴びた爪をさっと振り払うと、老人たちだったものを素通りして部屋を出て行った。
「期待以上の成長をしてくれたね、エリーゼ」
ラインハルトの呟きは廊下に静かに響いて消えた。
エリーゼを迎えに行った彼は、エリーゼと共に寝室にいた。
「エリーゼ」
「ラインハルト様、勝手に家を飛び出して申し訳ございませんでした」
エリーゼは頭を下げた。
しかし、彼は彼女を愛おしそうに抱きしめる。
「無事でよかった」
彼はそう告げた。
「君は力を覚醒させたんだね」
「あの時、私が私でないようでした。あれは本当に私の力なのですか?」
「紛れもない君自身のヴァンパイアと、そして稀血が融合した新しい力だよ」
ラインハルトの言葉を受けてエリーゼは鏡に映る自分の姿を見る。
そして、振り返ると彼に言う。
「アンナに王妃になる覚悟を持てと言われました。私は言われて気づく大馬鹿者ですが、私はラインハルト様の傍にいたい。支えたいんです」
ラインハルトは彼女の言葉を静かに聞いていた。
「これから立派な王妃になれるように努力します。そして、私は……私は……」
エリーゼは漆黒の瞳を潤ませながら、ラインハルトを見つめて言った。
「私はラインハルト様を好きになってもいいですか?」
ラインハルトはその言葉に少し驚く素振りを見せるが、すぐさま少し微笑むとなんとも愛おしそうにエリーゼを見つめる。
「こんな私を好きになってくれるのかい?」
「はい」
「元老院から聞いたのだろう? 私は両親の仇だよ」
「それでも」
「同じ血が流れているからかもしれないよ」
「それでも私はあなたと生きる決心をしました。私にあなたを愛させてくれますか?」
「もちろんだよ」
そう言って、二人は抱きしめ合ってそっと唇を重ねた。
血で結ばれた絆は、心を通わせて愛を育む。
王と王妃の少し歪んだ愛はこれから何千年も続くヴァンパイア王政のはじまりとなった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
ヴァンパイアが好きなので、書かせていただきました。
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