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第12話 陰謀と危機

 エリーゼが次に目を覚ますと、そこはどこかの屋敷だった。


(なに、ここは。あたたかいあの小屋は夢?)


 薄暗い中で足元に何かに当たる感覚がして、下を見た。

 そこには森で助けてくれた青年が倒れている。


「あなたは……!」


 その様子からもう彼は生きていないことがわかった。


(夢じゃない。でも、どうして? どうなっているの?)


 混乱するエリーゼは誰かに声をかけられる。


「おや、目覚めましたかな。『王妃様』」


 その人物をエリーゼは知っていた。

 クルトが以前、元老院の人間だと教えてくれた人だったからだ。


「あなた、元老院の人ね?」

「おや、よくおわかりですね? 王に教えてもらったのでしょうか」


 老人は嘲笑する。

 『王』や『王妃』と口にしながらも、敬意の欠片もないことがエリーゼに伝わってくる。


「何のつもりですか、こんなことをしてラインハルト様が黙っていないですよ」

「ええ、私たちは決めたのですよ。王を潰すことに」

「潰すですって?」

「あなたも利用されて可哀そうに。哀れな王妃様」

「え?」

「その様子だと何も知らないのですね、当然ですよね。王が話すわけないですものね。では、親切な私が教えてあげましょう。本当の”真実”というものを」


 老人はエリーゼに語り始める。


「あなたは幼き頃、下級ヴァンパイアに襲われて王に命を救われた。そうですね?」

「はい」

「なぜ襲われたか知っていますか?」

「稀血だからと聞きました」

「表向きはそうですね、ですがあなたを襲うように仕向けた人がいたのですよ」

「え?」


 エリーゼの反応を楽しむように老人は笑みを浮かべると、答えを口にする。



「あなたの両親ですよ」



 エリーゼにとってあまりに信じられない言葉だった。


「あなたの両親なんですよ、あなたを襲うようにしたのは」

「嘘よっ! そんなはずないっ! お父様とお母様がそんなっ!」

「あなたの両親はあなたが『稀血』なのを知り、自分の娘の命を私たち元老院に差し出す代わりに爵位を得ようとした」

「そんな……」

「『稀血』はヴァンパイアにとって魅惑の血。ただし、あなたの血は他の『稀血』とは別物。ヴァンパイアを殺すことができる血でした」

「ヴァンパイアを殺す……」

「王はあなたを生かすために見守っていましたが、私たちがその隙をついて下級ヴァンパイアを送り込み殺そうとした」

「まさか……」

「それがあなたが幼い頃襲われた日の真実です」


 エリーゼは言葉を失ってしまう。

 しかし、エリーゼの中で一つの疑問が残ってそれを目の前の老人にぶつける。


「じゃあ、両親はなぜっ!」


 老人は一つにやりと笑うと、そっとエリーゼの耳元で言う。


「あなたの両親を殺したのはラインハルトです」


 エリーゼは心が締めつけられるような気がした。

 あまりに信じられないことの連続で理解が追いつかない。


 エリーゼは目の前が真っ暗になる。

 その様子を見て老人は満足そうに笑みを浮かべると、爪を鋭く尖らせてエリーゼの命を狙う。


「王妃、あなたが家を出たことで我々はラインハルトの弱みを握ることができた。あなたという人質をね。あなたはいずれヴァンパイアにあだなす存在。生かしてはおけません」


(私、死ぬの?)


 今度こそ死ぬのだ。

 目の前にいる老人の顔つきは殺すことをためらわない、そして何人も殺しをした顔をしていた。


(もう、終わりなのね、私は……)


 エリーゼは最期の瞬間をじっと待ちわびる。




 しかし、いくら待ってもその「最期」は訪れない。

 静かに目を開くと、目の前で老人の爪から守っているアンナの姿があった。


「アンナちゃん!」

「ちゃんづけはやめてって言ったでしょ!」

 老人の爪をはじく様に、アンナはナイフを振りかざす。

 そのまま距離を取ると、左手をかざしてエリーゼを守るように構える。


「どうして……」

「たくっ! ほんとに軽々しく家を飛び出さないでくれる? 迷惑なのよ!」

「ごめんなさい……」

「謝らなくていい!」


 攻撃を受け止められた老人は、悪態をつく。


「ふん、ラインハルトの懐刀か。その女がどういうやつかわかっているのか? お前が血を飲んでも死ぬんだぞ?」

「は? あんたこそ何もわかってないんじゃないの?」

「なんだと?」

「こいつは『ヴァンパイアの王妃』よ! 私は全力でこいつを守る。ただ、それだけ」


(アンナちゃん……)


 エリーゼは彼女の言葉に優しさを感じた。

 そして、グラーツ邸で行なわれた夜会でのことを思い出す。



『あんた、ラインハルト様の妻なんでしょ!? ただの妻なんかじゃない、【ヴァンパイアの王妃】なのよ、あんたは!』



 その言葉がよみがえった時、エリーゼの中で何かが吹っ切れた気がした。


(そうだ、私は……)


 老人は再び鋭い爪を伸ばして今度は青白い光を纏わせて襲い掛かって来る。

 アンナはナイフで自分の腕を切りつけて血を流すと、その血を纏わせたナイフで老人に応戦した。

 ナイフに纏わせた血は生きているようにうごめくと、そのまま老人に刃のように切りかかる。


「ござかしいっ!」


 その血の刃の多くを尋常でないスピードで払いのけ、アンナの脇腹を狙って攻撃をしかける。


「くっ!」

「あんたのその汚い手が私に触れるわけないでしょ」


 そう言って老人に血の刃を放つ。

 しかし、その攻撃に老人はにやりと笑った。


「まさかっ!」


 アンナは老人の意図に気づき、声を荒らげる。


「エリーゼっ! 逃げてっ!」

「え?」


 老人の血がするりと床を這ってエリーゼに襲い掛かる。

 その血の刃はエリーゼを殺そうとしていた。


(私、何もできずに死ぬの?)


 老人の刃がエリーゼの首元に迫る。


「エリーゼ!」


 アンナの叫びが響く。


(私は何もラインハルト様に恩を返せていない、そして、アンナにもクルトにも。私は、私は、王妃なのに!!)


 そう思った瞬間、エリーゼの周りに風が巻き起こる。


「なんだ、これは……」


 老人は風に目をやられ、手で身を守りながら言う。。

 そしてアンナも呟く。


「王妃……様」


 巻き起こった風が止んで静寂が訪れたその場には、真紅のドレスを身にまといヒールを履いたエリーゼがいた。

 その瞳は漆黒から真紅に変わり、そして赤く染まった爪が輝いていた──。

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