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第10話 初めてのデート

 ある日の夕方のこと──。


 エリーゼは自室で本を読んでいた。

 すると、彼女の耳にノックの音が届く。


「はい」


 すると、入ってきたのはラインハルトだった。


「ラインハルト様っ!」

「エリーゼ、よかったらこれから外に出かけないか?」

「いいのですか?!」


 実家を襲われてから彼女はなるべくグラーツ邸にいるように彼から言われていた。

 それが外に出ていいということで驚きを隠せない。


「何か用事があるのですか?」

「いや、エリーゼと外に出たくてね。デートだよ」

「でーと?」


 エリーゼはきょとんとする。

 一方、ラインハルトはというと珍しくにこやかな顔をしていた。


 エリーゼはきょとんとした顔でラインハルトを眺める。

 一方ラインハルトは、珍しくにこやかな顔でエリーゼを見つめていた。



 外に出て街に出ると、人通りはそれなりにある。

 ラインハルトの勧めるカフェへと立ち寄ると、エリーゼはカフェオレを飲む。


(こうしてみると、私たちも街にいるまわりの人も何も変わらないわね)


 じっと外の様子を眺めてみるが、皆日常を過ごしている。

 自分が襲われたことなど夢なのではないかと思うほどに……。


 すると、ラインハルトがエリーゼに尋ねる。


「どうだい? 少しはうちの暮らしが慣れたかい?」

「はい、とてもよくしていただいております。ランセル子爵家での暮らしより良いので少し戸惑うほどに……」

「そうか、少しずつ慣れてくれればいい」


 コーヒーのカップを細い指が捕らえ、優雅に口元に運ばれる。

 その様子をエリーゼはついうっとりと眺めてしまった。


「どうしたんだい?」

「あ、いえ、綺麗だなと思ってついみてしまい……」


(しまった、うっかり本音が……)


 エリーゼは口元を急いで覆った。

 しかし、彼はそんな彼女の様子を楽しむように机の下でこつんと彼女の膝に自分の膝をあてる。


 突然ことにエリーゼの心臓は飛び跳ねた。

 さらに意地悪そうな顔をした彼は店員を呼ぶ。


(店員さん、来ちゃった……)


 エリーゼの顔は真っ赤だ。

 その顔を見られまいと店員から必死に顔を逸らす。

 一方、ラインハルトは彼女とは違ってなんでもないというように店員に注文する。


「フレンチトーストを一つ彼女に頼む」

「かしこまりました」


 ようやく店員が去った時、彼女の緊張感が解けていく。


(変に思われなかったかな……?)


 そんな彼女の様子をラインハルトは楽しんでいるようだった。


「ここのフレンチトーストは美味しいんだ」

「そ、そうなんですね」


 エリーゼはこの時、ラインハルトが意地悪な人間だと思った。




 初めてのデートを終えて屋敷に戻った頃には、すっかり夜になっていた。

 ラインハルトと玄関で別れた彼女は、自室へ向かっていく。


 その時、どこかから人の声がした。


(誰?)


 エリーゼは誘われるように通りがかった部屋を覗く。

 すると、そこにはアンナとクルトがいた。


 アンナの服が乱れ、クルトが彼女の首元に顔を寄せている。

 彼らが何をしているのか、エリーゼは少しして気づく。


(吸血してる……!)


 クルトがアンナの首筋に牙を立てている。

 それはおぞましいというより、どうしてか美しく艶やかなもののように思えた。


 エリーゼは逃げるようにその場を去った。



 彼らがいた部屋からかなり離れたところまで来た時、ようやくエリーゼは走るのをやめた。


「はあ……はあ……」


 呼吸が整い始めた頃、あることに気づく。


(私、一度も吸血したいと思ったこと、ない……?)


 ヴァンパイアは血の濃い者であっても吸血衝動が必ず起こるとエリーゼは認識していた。

 それが自分にはない。


(どうして? どうして吸血したいと思わないの?)


 そんな疑問と共に新たな疑問も浮かぶ。


(じゃあ、ラインハルト様は?)


 ヴァンパイアの王は特別な体質で吸血衝動がないのかもしれない。

 そんな可能性も考えたが、確かな証拠は何もない。


(知りたい、自分のことも、彼のことも……)


 エリーゼはすぐ近くにあったラインハルトの部屋に向かう。


 ノックをすると、中から彼の声がした。


「エリーゼかい?」

「はい、今よろしいでしょうか?」

「ああ、構わないよ。入っておいで」


 緊張しながらエリーゼは彼のもとへ行く。


「珍しいね、エリーゼが私を訪ねてくるなんて。私が恋しくなったかい?」


 甘い言葉がエリーゼにかけられる。

 しかし、彼女の頭は先程の疑問でいっぱいだった。


「ラインハルト様、教えてください。私にはどうして吸血衝動がないのですか?」


 彼女の言葉を聞いた彼は、手紙を書く手を止めた。


「……本当に知りたいかい?」


 彼の真紅の瞳がエリーゼを捕らえる。

 その瞳がエリーゼの疑問の答えを持っていることを示していた。

 彼女は覚悟を決め、告げる。


「教えてください。『私』を」


 彼女の答えを聞いた彼は、口を開いた。

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