第21話 空蔵の策
剣技を磨いた所で所詮間合いの外には手が届かない。
火炎で遠距離を支配し、敵を近距離に誘い、抜刀術で斬る。これぞ最強の方程式。
「君が妖刀か、まさに鬼に金棒の最高のアイディアだな。ただし、もし使用許可が出ても君に扱えるかどうかはわからないよ?」
「妖刀が人を選ぶからか?」
「そういうこと」
使えるかどうかは運任せか。
「お話中すみません」
一人の不知火兵が話しかけてくる。
「空蔵吉数様でしょうか?」
「如何にも」
「天草凛音様がお呼びです」
「え……」
天草が……?
「まさか、ここに来ているのですか?」
「はい。周布城でお待ちかねです」
お待ちしております、ではなく、お待ちかねか。
俺は天草軍の所属でありながら周布に独断で来た。きっとお怒りだろうな……。
「凶撫様もお呼びです」
「そうかい。僕も話したかった所だ。いいだろう」
「ヤス。もし雪凪が起きたら周布城に居ると言っておいてくれ」
「うん! 伝えとく」
胸壁から離れ、周布城へと足を運ぶ。
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連れてこられたのは座敷の部屋。
天草凛音殿は眉を寄せて、腕を組んでいらっしゃる。
「……周布の防衛に来た点については、些か苛立ちはあるが、周布の重要性を理解した上での行動だろうから不問とする――ちっ」
苛立ちを隠せていないですよ。天草様。
「問題は……」
「灼華を取られたことだね」
「その通りだ凶撫。私の予想だが……」
「灼華で凍獄の氷を溶かすつもりじゃないか」
「その通りだ凶撫。恐らく最短でも――」
「五日はかかる」
「そ、その通りだ。そこで私は――」
「舞魏へ進軍するつもりだ」
「……ちっ」
天草の舌打ちが静かに響く。
「問題はどう攻め込むかだね」
セリフを全取りした凶撫は指を鳴らし、従者の一人に付近の地図を開かせる。大きな地図で、四畳ほどの大きさはある。
「ハッキリ言って、まだ僕らには正面から舞魏を取る程の力は無い」
凶撫は断ずる。
「だから今回の進軍で舞魏を取りにはいかない。目的は灼華の奪還に絞る。狙いは亜羅水が氷塔を溶かしている時だな。氷塔を溶かしている時は当然、灼華とその所有者は氷塔につきっきりになる。そこを狙う」
「正面から当たり、何とか私や凶撫をそこまで捻じり込むか」
「それしかないだろうね」
俺は凶撫の目を見る。凶撫は俺と目を合わせると薄く笑う。
「いいよ。君の意見も聞かせてくれ」
「ああ」
俺は前に出て、地図に乗り、地図を指でなぞる。
「本隊が周布から西に出て、真正面から舞魏を狙う。これは確定で良いと思います。だがその前に……」
俺は周布の北の、川沿いの道を指でなぞる。
「別動隊を周布の北から出撃させ、川沿いを回り、舞魏の北の山間から中に侵入する……というのはどうでしょう」
ほう。と凶撫は腰に手を当てる。
「本隊を丸々囮に使うわけか」
「戦力は東門に集中し、北門は手薄になるはずです」
天草は鞘で舞魏の北門を指し、
「そもそもここは何もせずとも手薄だしな」
「吉数君が示した道を大軍は通れないし、通れたとしても必ず舞魏の監視網に引っ掛かる。だから北門の方を警戒する意味は無いからねぇ」
「悪くない作戦だけど、問題は面子だよ。無傷で氷塔まで辿り着けたとして、そこの衛兵と灼華の所有者を倒し、舞魏から逃げ帰るのは至難の業だ。かと言って人数は掛けられない。精々10といったところか」
誰が行くんだ? と、天草傘下の武家達はザワザワし始める。
本音は誰も行きたくないだろう。この作戦の成功率は極めて低い。
「この作戦は失敗した所で一小隊が消滅するだけ。やるだけ得だと思うけど、どうかな凛音ちゃん」
「ああ。次善の策としては上々だな」
「さぁって、誰に行かせる?」
誰も行きたがらない。自分が行きますとは言えない。
別に構わないさ。元よりこの作戦は、
「俺が行きます」




