第19話 刹那の攻防
この斬り合いは四つの段階に分けられる。
一つ、奴の鞘による突き。
二つ、俺の抜刀。
三つ、奴の折れた刀による突き。
四つ、俺の刀の返し打ち。
ほぼ確定でこの順で斬り合いは進む。もちろん、どこかの手順でどちらかが致命傷を受ければその後の手順は消える。
まず最初、奴の鞘による突き。これをまともに受ければ、死にはせずとも戦闘不能まで追い込まれる可能性は高い。これは絶対に防ぐ。回避するのがベストだが、最悪抜刀術を消費してもこれは防がないとダメだ。
だがもし抜刀術を鞘突きに対して消費した場合、奴の刀による突きでやられる。折れた刀による突きだから、最悪喰らっても死にはしないかもしれない。
もし刀による突きを喰らっても意識があれば、返しの太刀で奴の首を斬る。さっきは左腕に防がれたが、直接首ならば……あわよくば斬れるかもしれない。
「喰らいな『天抜』!!」
鞘による突きが迫る。
(避け――ろぉ!!)
俺は首を振り、突きを回避する。
勝った――と思ったのも束の間、
(コイツ……!?)
奴は突きを回避された瞬間に手首を返し、俺の側頭部を鞘の薙ぎ払いで打とうとする。
この野郎、最初から狙いはこの二段目の薙ぎ払いか!! 側頭部、こめかみの部分。喰らえば意識昏倒からの二撃目の突きで即死! 仕方ない!!
(抜刀――!!)
突きを回避し半歩踏み込んだことで奴との距離は近い。おかげで鞘ではなく、腕を狙える。
「――ッ!!」
左腕取ったり。
奴の左腕を切断することには成功したが、問題はその後、
「二の矢、『天抜・双式』!!」
折れた刀による、引き絞られた突きが迫る。
速い。直撃を避けるのは不可能。
狙いは俺の顔面。折れた刀とはいえ、喰らえば死ぬ。
(返しの太刀!!)
狙いは首じゃない。首は遠い。首を狙っていたら俺が先に穿たれる。
狙いは――奴の腕の肘関節! その内側!!
奴の左腕を斬り落とした事で、左腕の妨害を意識せず最短距離で右腕を狙える!!
「間に、合え!!」
俺の刀が先に奴の関節に届く。斬れはしないが、腕を強引に僅かに曲げさせ、突きを逸らすことに成功。
奴の折れた刀は俺の左肩に突き刺さる。
「やるなぁ!! お前ェ!!!」
「間に合った……! 後は!!」
俺は刀を鞘に向かわせる。
もう少しで納刀が終わる――というところで腹を右足で蹴り飛ばされた。
「かはっ!?」
奴の刀が俺の肩から抜ける。
肩から血を吹き出しながらぶっ飛ぶ。
「あっっぶねぇなオイ!」
ちくしょう。一瞬でも刀が鞘に収まれば、斬れたのに……!
納屋に背中から突っ込む。
背中に痺れが走る。腰もいてぇ。だが立てる。
また距離が開く。俺はすでに納刀完了。抜刀姿勢も取れた。奴の手には折れた刀のみ、左腕は無い。しかし長鞘は健在。
もうさっきのような抜刀破りは使えない。とは言え、俺の体もかなりのダメージを負っている。自分から仕掛けるには心もとない体力だ。
どうするかな。
「はっはっはっは!!」
「……?」
突然、王馬は笑い始めた。
「やめだ」
そう言って折れた刀を鞘に収め、斬られた左腕を拾う。
「攻め手がねぇ! お前の勝ちだ抜刀小僧。ここは退かせてもらう。目的の灼華は手に入ったし、お偉いさんも文句は言わねぇだろ」
「勝手に勝ちを譲られても困るな。お互い『生きて』終わるなら引き分けだろ」
「ん~? そりゃ言えてるな。じゃあ引き分けだ。またな抜刀小僧。どうせ俺とお前はまた会う。互いに戦を求めているんだからな……待ち合わせせずとも、次に会う場はわかっているな?」
王馬と視線が交錯する。
「ああ。――戦場で、今度こそ決着をつけよう」
「応」
王馬は瞬く間に姿を消した。
正直、助かったな。俺も俺で攻め手が無い。このまま続けていたら……十中八九相打ちだった。
天眼寺王馬か。良いじゃないか。燃える。心の底から思う……あの男を斬りたいと。
「さて、凶撫のやつは上手くやったかな……」
動こうとして、背中に激痛が走る。
「つぅ……!」
この感覚、なんて形容すればいいだろうか。
背中の筋肉が積み木のように不安定で、ちょっと動くだけで裂けるように痛む。
「これは……雪凪の到着を待った方がいいな」