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第18話 待ちわびた死合い

 妖刀衆・叢一刀斎、死亡。

 相当強い爺さんだったそうだが、見た感じ一騎打ちで負けたみたいだな。


「どっちが次の相手だ? 仙人みてぇな気を放つ小僧か、それとも妖怪のような気を放つ小娘かぁ? どっちだ! 両方でもいいぜぇ!!」


 凄まじい気迫。黒岩なんかとか比べ物にならない。

 言っちゃなんだが、天草よりも強そうだな。


「はいはーい! 質問でーす!」


 凶撫が手を挙げる。


「なんだ?」

「君の名前は? 位は? 決闘の前は互いに名乗り上げるのが常識でしょ。教えてよ。お願い!」


 お願いって……わざわざ相手に情報を渡すわけが……。


「それもそうだな。いいだろう。名乗ろうか」


 いいのかよ。


「五宝傑が一人、天眼寺王馬!! 好物はすき焼き! 好みの女は箸使いが上手いやつ! 趣味は戦・戦・戦ァ!!! よえぇ奴に用はねぇ! 強者だけが前に出ろ!!!」


 聞いてもないことまで喋ってくれたな。


「五宝傑か」

「知ってるのか?」

「ああ。亜羅水の国王が重宝し、強い権限を与えている五人の英傑のことを五宝傑と呼ぶ。と言ってもずっと昔に廃止された制度のはずだけどね。僕が引きこもっている間に復活したのかな」

「おら! 名乗ったぜ! 次はテメェらの番だ!」


 凶撫は小さな声で、


「……魔力を感じない。間違いなく聖騎士だな」


 スーパーフィジカルってわけか。


「聖騎士は邪気を持つ武器、妖刀は使えない。灼華は警戒する必要なし」


 純粋な斬り合いになるわけだ。


「……ここは二人で」

「いらん」

「なんだって?」


 さて、どう言いくるめるか。


「凶撫、大局を見ろ。まずやるべきは周布の防備の再構築だ。周布を取られればこの先かなり展開しづらくなる。お前は叢の代理として軍を立て直し、敵軍の襲来に備えろ。コイツは俺が抑える」

「ふーむ……わかった。君の口車に乗ってあげよう」


 凶撫は場を後にする。

 アイツには俺の心中なんてバレていただろうな。


「お前が相手か」

「名は空蔵吉数。好物は肉まん。座り姿が美しい女性が好みだ」


 俺は王馬を見据える。


「趣味は……戦」

「は! 気が合うじゃねぇの!!」


 王馬は刀を振り回し、空気を研ぐ。

 あの刀……170cmはあるか。厚みも、横幅も、通常の刀の倍はある。


 俺は抜刀の姿勢で構える。


 奴は妖刀を持っているが、凶撫曰く聖騎士は妖刀を使えない。

 つまり、奴は完全な剣客(けんかく)。遠距離を警戒しなくていいならこっちに分がある。


「いくぜぇ!!」


 真っすぐ突っ込んでくる。

 俺と奴ではおおよそ70cmほどのリーチ差がある。まずはこのリーチ差を殺す。


「『王閃(おうせん)』!!」


 王馬は刀を上から下へと振り下ろす。空気が唸り、弾ける音が聞こえる。大地さえ割りそうな一刀(いっとう)

 距離も絶妙。俺の刀は相手の体に届かず、相手の刃は俺の脳天を斬る完璧な間合い。


(――抜刀!)


 俺は王馬の刀の中心を『不観測』の抜刀術で斬る。


「――んぁなにぃ!!?」


 返しの太刀で王馬の首を狙う。だが、


「おっとっ!」


 王馬は()()で刀を止めた。


「ちっ!」


 抜刀術じゃないと、肌に傷すらつかないか……!


「――らぁ!!」


 折れた刀を振り上げてくる。俺は飛びのいて躱す。


「なんだぁ? 今のでたらめな剣は?」


 俺は刀を鞘に収める。


「俺の目で見切れねぇ斬撃なんてありえねぇぞ。そうか……お前だなァ! 黒岩のオッサンを殺したのはよぉ! 確かあのオッサンも抜刀術でやられたって話だったなァ!!」


 これでリーチは俺の方が有利。次の抜刀で仕留める。


「しかし~? 返しの一撃は大したことなかったな。あの見えねぇ斬撃、アレは抜刀術でしか出せない。そうだろ?」


 答えない。いちいち答えてやる義理が無い。

 だが、奴は俺が何も言わずとも抜刀術でしか『不観測』の太刀を出せないと確信しているだろう。


「お前の間合いは殺した。俺の勝ちだ」

「ぬりぃな! まだ俺の手の内に、長物(ながもの)はあるぜ」


 王馬は背負っていた長鞘を左手に持つ。


「鞘だと……!?」


 あの刀の鞘だな。刀の刃渡りと同等の長さがある。


「テメェの抜刀術を打ち破るには、それなりの覚悟が必要だな」


 王馬は鞘を持つ左手を前に突き出し、折れた刀を持つ右手を引く。その姿は弓を引く弓兵の構えに似ている。


「いま考えた構えだ。『双天(そうてん)の構え』とでも呼ぼうか」


 あの構え……狙いはわかる。

 左手の長鞘による突きで俺の抜刀術を誘い、抜刀後の隙を右の刀の突きで穿つ。二段構えの突き。

 対策は単純。鞘の突きを回避して懐に入ればいい。一つ目の突きに対して抜刀術を使わなければ懐に入って抜刀術で殺せる。


「……」

「……」


 ずっと、この緊張感が欲しかった。


 これぞ死合い。命の取り合い。一ミリの油断が死に繋がる戦い。


 肌が相手の殺気でヒリヒリする。


(最高だ……)


 周布のどこかで、建物が崩れる音がした。

 その音を合図に、俺たちは同時に飛び出した。

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