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第17話 宿敵

 前言撤回。恐ろしい能力だ。


「分類としては使役(しえき)術になるのかな。弱点は発動までに僅かに時間がかかるところか。まぁその辺りは汎用魔術でカバーできるけどね」

「風船の脆さも弱点だろ。刀じゃなくとも、ちょっと鋭利な石とかを踏んだだけで破裂してしまう」

「そこはカバー済み。風船に使っているゴムは僕の独自開発した物でね。魔力を帯びると鋼鉄より硬くなり、それでいてゴムが持つ伸縮性や衝撃吸収力も持ち合わせる。灯桜の樹液を研究・培養して、それを既存のゴムの木の樹液と錬成し作った最高のゴムだよ」


 ひざくら? 桜の名前かな?


「さて……」


 俺は雪凪の方を向く。

 雪凪は強がって表情を強張らせているが、明らかに顔色が悪い。

 人が死ぬ様……それも爆散する様を見たんだ。当然だな。


「雪凪、戦場ではこれよりも酷い死に様なんてザラだ。むしろ跡形も無く消し飛ばしただけ、今回は視覚的な衝撃は少なかった方だろう。引き返すなら今だぞ」

「い、いえ……大丈夫です……」


 今にも吐きそうな顔。

 やはり連れてくるべきではなかったか。


「ほ、本当に大丈夫です!」


 顔に出てたのか、雪凪は重ねて言う。そんな雪凪の強がりをヤスがフォローする。


「最初に人死(ひとじに)を見た時はみんな動揺するでしょ。吉数君だってそうだったでしょ?」


「いや別に」

「僕も特に何も感じなかったなァ」


「ごめんごめん。君達が変人だってことを忘れていたよ」


 気のせいだろうか、段々とヤスのツッコミが厳しくなってきている気がする……。


「僕なんか吐いたからね。雪凪ちゃんは目の前で人が死ぬのを初めて見たって言うのに、気丈に振舞えて凄いよ」

「いえ。人が死ぬ様を見るのは、はじめてでは……ありません」

「ん? そうなんだ」

「はい。父と母は目の前で殺されました」

「そう、なんだ……」


 気落ちする雪凪。意図せずとも雪凪に辛い過去を思い出させてしまい、ヤスも落ち込む。

 俺はヤスの肩を叩く。


「ヤス。もっと人の気持ちをわかろうな」

「君には言われたくないよ!」

「君達、そんな軽口叩き合えるぐらい元気なら、もう出発しよう」


 凶撫は周布のある方角を見る。


「どうした? 何を焦る?」


 戦闘があったんだ。少し休んでもいいはず。特に雪凪は精神的なダメージがあるだろうからな。


「強い魔力の波動を感じる。この気配……妖刀だ」

「周布で戦闘が起きているってことか?」

「確証はない。勘違いかもしれない。でも少し急いだ方が良いと思う」

「わかった。全員、行けるか?」


 雪凪とヤスが頷く。

 俺達はまた周布に向けて歩き出す。



 --- 



 周布まであと一キロ程という所で、俺たちは周布の空が紅く染まっていることに気づいた。

 すでに夜。ゆえに紅が良く見える。さらに近づくと、周布から空に向かって火炎の柱が伸びていることに気づく。


「燃えている……周布が!?」


 ヤスが絶望を帯びた声で言う。


「急ぐぞ」


 俺の号令で全員が走り出す。


「凶撫、アレは妖刀の力か?」

「間違いなく灼華の仕業だ。叢さん本気だねぇ~」


 周布の門は開いており、門から周布の民が溢れていた。

 俺達は人混みをかき分け、門から中に入る。


「うぅ……!」


 兵士のうめき声。

 負傷兵が次々と奥からやってくる。


「大丈夫ですか!」


 雪凪は傷ついた兵士に近づき、治癒術を施す。傷がみるみる治っていく。


「な、治った……あれだけ深く抉られていたのに……」


 ヤスが驚く。


「吉数様、私は負傷兵の手当てをしてもよろしいですか?」


 聞く前にもうやってるけど、


「ああ、任せる。ヤス、雪凪についてやってくれ」

「う、うん! わかった!」

「凶撫、俺達は戦闘区域に向かうぞ」

「りょーかい」


 凶撫と二人、火炎飛び散る周布を走る。


「しかし、これだけ炎上しているのに熱さを感じないな」


 弱々しい。と言ってもいい。


「叢さんが火炎を放置するなんてね。さすがにボケてきたかな~?」

「呑気だな。俺はその叢って人に余裕が無いように思えるぞ」

「大丈夫大丈夫。さすがに叢さんが負けることは無いよ。僕は妖刀衆の中ではあの人を一番高く評価しているんだ」


 俺達は辿り着く。『侵略者』の元へ。

 建物が灼け、開いた空間。そこに居たのは、長い髪で、長い刀を持った見知らぬ男。そしてその男に腹の中心を刺されている老人の姿。


 老人の手には、赤い柄の刀がある。


「あの老人が叢一刀斎か?」

「……まさかまさかぁ。私の知っている叢さんと完璧に容姿が一致しているが、きっと双子か、もしくはクローン……無いか。灼華持ってるもんなァ」


 あの刀が灼華か。

 長髪の男が刀を引き抜く。同時に叢の手から刀が離れ、周布の火炎が全て消えた。

 長髪の男は灼華を拾い、鞘に収め、腰布に掛ける。


「叢一刀斎打ち取ったり。お次はどいつだぁ?」

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