表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/25

第16話 凶撫の能力

 周布へと続く野原を歩いていく。


「せ、雪凪ちゃんは、好きな食べ物はなに?」

「特にございませんが……温かい物が好きです」

「そうなんだ。じゃあ、僕の家の肉まんいっぱい食べにおいでよ。安くしておくからさ」

「ありがとうございます」


 ヤスは熱心に雪凪にアプローチしている。青春だな。


「凶撫、周布を守っている妖刀衆はどんな奴なんだ?」

「妖刀衆『(くさむら)一刀斎(いっとうさい)』。あの人は一言で言うなら『万能』だね」

「お前に万能と言わせるか」

「ああ。炎を操る妖刀『灼華(しゃっか)』でなんでもこなすよ。火炎を刀に纏って近接もするし、火炎を飛ばして射撃もできる。炎の壁で守りもこなすし、火炎の翼で空も飛ぶ。熱で傷を塞ぐこともできる。防衛に置くなら最適だ」

 

 凶撫の表情を見るに、安心して背中を任せていい人みたいだな。


「剣術は?」

「60を超えているから肉体の衰えはあるけど、老練な剣術を使う。妖刀衆の最強は氷雨だろうけど、最優は叢さんだ。最弱はもちろん、凛音ちゃんだね」


 いちいち言わなくてもいいことを……。


「吉数君」

「どうしたヤス」


 ヤスは小さな声で、


「雪凪ちゃん、顔には出さないけど小さく息を切らしてる。そろそろ休憩を入れた方が良いよ」


 やはりヤスを連れてきて良かった。こういう小さな気配りができる。


「そうか。わかった」


 すでに登龍関を越えて暫く歩いた。少しペースを落としても問題ないだろう。


「あそこの木陰で休憩しよう」


 三度目の休憩。

 ヤスは持ってきた竹の水筒を雪凪に渡す。俺と凶撫は木に背を預けつつ周囲を警戒。


「凶撫、そろそろ聞いておきたい」

「なんでも聞きたまえ」

「お前の戦闘能力について話してくれ」

「あれぇ? 凛音ちゃんから聞いてないんだ」

「ああ」

「僕の力は単純だよ。『風船に命を与える』。それだけさ。それが僕の得意魔術」


 風船に命を?


「どこが単純だ。意味わからないぞ」

「では凶撫劇場、開演~!」


 凶撫は懐から風船の元となるゴム袋を出す。


「まずこれに風魔術で空気を入れまーす」


 ノーモーションで膨らむ風船。


「そしてこれを捻じって捻じって、犬にしまーす」


 バルーンアートだな。凶撫は凄まじい速度で風船の犬を作る。


「そして指を鳴らしまーす。ワン、トゥー、スリー」


 凶撫が指を鳴らすと、犬のバルーンアートはひとりでに動き出した。


「「おぉ~!」」


 とバルーンアートの出来含め凶撫に拍手を送るヤスと雪凪。

 ……凄い力だが、しかし……、


「あ、いま君、大して強くないなぁ~って思ったでしょ」

「正直そうだ」


 風船が動いた所で何ができるというんだ。


「舐めない方がいいよ。僕が生命を与えた風船は、その形の生物・物体の特性を持つようになる。たとえばいま作った犬の風船は優れた嗅覚で索敵する。ほら、なにか見つけたようだよ」


 犬の風船は30メートル程先にある岩の影に走っていく。すると、


「な、なんだこのブヨブヨした生き物は!?」


 男の声が岩陰から聞こえた。


「ば、馬鹿! 大声出すな!」


 俺は立ち上がり、岩陰に近づく。


「出てこい!」


 俺が声を張って言うと、岩陰から亜羅水の鎧を来た男三人が現れた。

 雑に髭が生え、見るからに肌が汚い。鎧もボロボロだ。


「……亜羅水の残党兵か」


 前回の登龍関防衛線で亜羅水の侵攻軍は壊滅したが、それでも一人残らず始末したわけじゃない。周布の方へ逃げた者も居れば不知火軍の追跡から逃れるため、この辺りに身を隠した兵もそれなりの数は居るだろう。


「だろうね」


 凶撫が俺の横に並ぶ。


「下がってろ。危険だぞ」

「舐めるなと言ったはずだよ。アレは僕が始末しよう」


 亜羅水の兵士たちは抜刀する。


「不知火め……もう滅亡寸前の癖に、悪あがきしやがって!」

「はっはっは!! 男は皆殺し! 女はぶっ犯してやらぁ!!!」


 品の無い連中だ。


「処女にこだわりはないけど、君らのような()()()()()()()()オスにはやれないねぇ」


 凶撫の服の隙間から、ゴム袋が四枚ほど飛び出る。風魔術で出したのだろう。

 ゴム袋は空中で膨らみ、凶撫は縦長の風船を手に取り剣の形にする。


「そんな玩具出して、ふざけてんのかぁ!!」


 一人が斬りかかってくる。凶撫は手に持った風船の剣で相手の刀を()()()()()


「なっ!?」

「僕は大まじめだよ」


 凶撫は風船の剣で兵士の胸を貫き、その死体を蹴り飛ばす。

 そうか……剣の形をした風船だから、剣の如き切れ味を持っているわけか。いや、普通の刀より遥かに切れ味は上。凶撫の能力値によって特性に補正が掛かっているのかな。


「っ!?」


 背後で雪凪の悲鳴が漏れた。


「な……なんだこの女……!」


 凶撫は更に蛇の形をした風船を二個作る。蛇風船は地を這い、相手の一人に巻き付き体を拘束する。

 さらに最初に出した犬風船がもう一方の兵士の頭に飛び乗った。


「実はね吉数君、僕が生命を与えた風船はもう一つだけ面白い特性を持つんだよ」


 凶撫は手に持った剣の風船の空気を抜き、歪な笑みを浮かべる。


「もう一度指を鳴らすと、なんと僕の作ったバルーンアートは爆弾と化し、炸裂する」


 凶撫が指を鳴らす。同時に、蛇風船と犬風船が爆発。

 爆発の規模は車を吹き飛ばせる程で、兵士二人は跡形も無く消し飛んだ。


「――終演」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ