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第15話 天眼寺王馬

 ヤスも周布には行くつもりだったそうで、俺達に合流することを快諾してくれた。

 肉まんを食べながらヤスの準備が整うのを待つ。


「雪凪、熱いから気を付けろよ」


 雪凪はフーフーとか細い息を吹きかけ、肉まんにかぶりつく。


「あふっ、はふはふ!」


 まぁ、そんなそよ風じゃこの熱は冷ませないだろうな。

 凶撫は指を鳴らし、風を起こす。魔術だろう。起こした風で肉まんを冷まし、美味そうに頬張る。

 俺はもうこの肉まんの熱には慣れているので、そのままかぶりついた。


「うっまいねーっ! タケノコのコリコリの食感が堪らないよ~」

「おいひいでふ! ……ごくん。体の芯まで温まります」


 コンビニで食べる肉まんよりタケノコやシイタケを大きく切っているため、山の風味を良く感じられる。腹に直接自然のパワーをぶち込まれているような感覚だ。力が湧き上がってくる。


「お待たせ~!」


 肉まんを食べ終えた所で、ヤスがやってきた。

 ヤスの装備が以前と違う。前は重装備だったのに、今回は胸当てと籠手、あと槍だけの軽装だ。


「装備減らしたのか?」

「周布までは半日ぐらいかかるからね。さすがに完全装備じゃ重いよ」


 そういうことか。


「よし、全員準備はいいか?」

「うん!」「大丈夫です!」

「待った吉数君、大事なこと忘れてない?」


 凶撫は肩を竦める。


「大事なこと?」

「まだこの小隊の隊長を決めてないじゃないか」

「必要か? こんな即席且つすぐに解散するであろう小隊に」

「必要さ。この戦乱の世、何が起きるかわからない。いざという時、迅速に対応するためにも指揮系統はしっかりしておいた方がいい」


 そう言う凶撫の顔は笑っていても真剣さがあった。

 そうか。なら、


「俺がやる」


 凶撫は能力的には一番隊長向きだろうが、性格が破綻しているので選考外。

 反対にヤスは性格良いし、俯瞰して物事を見れるから悪くないが、強い責任感を乗せると空回りしそうだ。戦闘経験皆無の雪凪は論外。

 消去法で俺しかいない。


「異議なーし!」

「僕も構わないよ」

「もちろん、私もです」

「なら決定だ。空蔵隊はこれより周布へ向かい、防衛軍に参加する。登龍関までは約六時間、そこから周布までは大体五時間かかるらしい」


 合計十一時間。もちろん、休憩などを含め、徒歩で行った場合の時間だ。


「今から出発すれば着くのは夜中になるだろう。日が暮れれば獣や野盗が出る。戦場で無くとも用心しろ。わかったな?」


 全員が返事する。


「では出発する」



 ◆ 



 空蔵一行が不知火の里を出発した頃、周布の砦の門の前に一人の男が訪れていた。


「ん? 何者だアレは!」


 砦の見張り塔で索敵をしていた不知火兵はすぐさま男を見つけ、仲間に伝える。

 門番が二十人出てきて、男に槍を向ける。


「止まれ! なんだ貴様は!」


「お! お出迎えかい?」


 来訪者は長い黒髪の剣士。

 鎧は着ておらず、花柄の着物を着ている。


「俺は亜羅水の五宝傑(ごほうけつ)が一人、天眼寺(てんがんじ)王馬(おうま)だ。周布を取りに来た。よろしく」


「なっ!?」


 兵たちは王馬の後ろを見る。だがそこには誰もいない。軍勢はただ一人。


「五宝傑と言えば、亜羅水を統べる五人の将のこと。そんな人間がたった一人で来るとは思えん。隠している部下たちを出したらどうだ?」


「部下なんていねぇよ」


 王馬は背負っている刃渡り150センチの刀を抜く。


「黒岩のオッサンを一騎打ちで倒したという侍を探している。そいつを出してくれるなら、周布は見逃してやってもいいぞ」


「舐めるなよ貴様ぁ!!」


 襲い掛かる兵たち。だがその全てが、一刀の内に薙ぎ払われた。

 分断される上半身と下半身、吹き上がる血潮を躱しながら、王馬は前進する。


「侮っていたのはお前たちの方だったな」


 周布の全域に、緊急事態を知らせる銅鑼の音が鳴り響く。

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