第14話 パーティ結成!
凶撫に手首を掴まれ、困惑する雪凪。
俺は納刀状態の刀を凶撫の首に添える。
「放せ、凶撫」
「これは失敬」
凶撫は両手を上げる。
「すまないね。彼女の治癒術がつい珍しくて興奮してしまった」
俺は刀を帯に戻す。
「詠唱も陣も無しにこれだけの治癒効果を出せるのは凄いよ。君、治癒師の才能があるよ」
「そう、なのですか……」
「どうかな吉数君、彼女も周布に連れて行かないか?」
コイツ、余計な提案を……。
「周布? どういうことですか吉数様」
「俺たちはこれから周布の軍と合流し、周布の防衛につくつもりだ」
「では、暫くの間……」
「ああ、ここへは戻らない。しかし凶撫、いくら治癒の力があると言っても雪凪を連れて行くのは反対だ。彼女には戦場で生き残れるだけの自衛能力はない」
それに……彼女を危険に晒したくはない。
「治癒師は前線には出ない。軍の遥か後方で怪我人の治療をするだけだ」
「だとしても、もし防衛が失敗したら……」
「君と僕が居て失敗するわけがないだろう」
ダメだ。凶撫と話していても平行線を辿るばかり。
「雪凪、もちろんお前は断――」
「行きましょう」
「えぇ……」
「この力で少しでも人を助けられるなら、私は、頑張りたいです……!」
雪凪の純真な視線が突き刺さる。
「……前線に絶対に出ないと、約束できるか?」
「はい」
「危険な事はしないと、約束できるか?」
「はい」
「……わかった。なら止めない」
不安だが仕方ない。『ここへ残れ』と雪凪に命令する権利はない。
凶撫は指を鳴らし、
「決まりだね。じゃあこの三人パーティで出発だぁ!」
「ぱーてぃ?」
単語の意味がわからず首を傾げる雪凪。
「部隊みたいなもんだ。凶撫、もう一人、誘いたい奴がいる」
「まさかとは思うけど凛音ちゃんじゃないだろうねぇ? 僕は彼女とは気が合わないよ~。それに彼女はいま不知火の里から離れられないと思うよ」
「お前が知っている人物じゃないよ」
「ほう?」
「雪凪、何か準備することはあるか?」
「いえ」
「ならば最後の一人を迎えに行こう」
雪凪と凶撫を連れて足を運んだのは肉まん屋『餡々』。
肉まん屋というか中華まんの店だな。餡まんや餃子まん等も置いてある。
店の中に入ると、
「いらっしゃいませー!」
と、満面の笑みで出迎える少年が一人。
「よう、ヤス」
「あ! 吉数君じゃないか! 君もよく来るね」
「『よく』?」
背後の雪凪から怒りのオーラを感じる。
「……たまに夕食を残したりしてましたけど、まさかここで間食していたからじゃないですよね……?」
「いや、それは……その……すまん」
「え……!? ……ちょ、ちょっと吉数君!」
ヤスが腕を引っ張ってくる。
ヤスは女子二人から距離を取り、小声で、
「あ、あの可愛い子誰!? あの青い髪の子!」
「雪凪だ。俺の世話係をしてくれている」
「せ、世話!? 世話って……どこまでの!?」
「何を興奮しているんだ。ただ掃除や料理をしてもらっているだけの関係だ」
「そ、そうなんだ。あのもう一人の子は?」
「アレは枢木凶撫だ。名前ぐらい知ってないか?」
「ええ!? あの人が!? 不知火の里随一の魔術師で、里で最も嫌われていると噂の……」
嫌われているのかアイツ。まぁ当然か。
「き~す~くん」
枢木が背後から肩を組んでくる。胸が当たっているが、コイツはこういうの気にしないんだろうな。
「まさか彼が最後の一人?」
「そうだ。平凡で特に何ができるわけでもないが、信頼できる男だ」
「それ、褒めてるの吉数君?」
「ふーん、つまんなそうな男だねぇ。てっきり雪凪ちゃんみたいに特別な何かがあると思っていたよ」
「何も特別じゃないからこのチームには必要なんだ」
「さっきから酷い言われようだな僕!」
「とりあえずヤス」
俺は指を三本立てる。
「肉まん三つ。よろしく」
「結局なんなの!? ごはん食べに来ただけ!?」