第12話 情報交換
まず俺が先に抜刀術の情報について開示した。
ただひたすらにこの技のみを極めたこと。特別なことは何もしていないこと。魔術などの異能の類は絡んでいないということ。
抜刀術は基本的になんでも斬れること。『抜刀する』と意思決定した時にはすでに抜刀が終わっていること。音も、風圧も発生しないこと。
凶撫も天草も俺の話に対し、驚いたような反応をしていた。二人共俺の技について考え込む。
「魔術の類で無いはずがない。あれだけの技だぞ。明らかに私の妖刀のような異能だろう」
「なんとなく、僕はその抜刀術のカラクリについてはわかったかな」
凶撫は顔に汗を這わせている。
それしかない。けど信じられない。そんな相反する思いが見え隠れする表情だ。
「ならば、そのカラクリとやらを私たちに教えてくれ」
「いいや、まだ確証はないし……また今度ね。次は君達の番だ。なんでも聞いてくれたまえ」
天草と顔を合わせる。
俺が聞くより、軍の事情に詳しい天草が聞いた方が良い。俺がそう目で訴えると、天草が口を開いた。
「亜羅水の黒鎧について聞きたい」
「黒鎧?」
「亜羅水の武将は全員、黒い鎧を着ていて、その黒い鎧はほとんどのダメージを通さない」
「ほう」
「素材が強固では説明がつかない硬さだ。魔導衆の魔術すら弾く。アレは明らかに異能の類だ」
凶撫は一考し、
「なにか共通点は無かったかい?」
「だから、色が黒」
「いいや鎧じゃなくて、その鎧を着けていた人間にさ」
天草は数秒考え、
「そういえば……全員、体のどこかに十字の傷があったな」
「はい、『聖痕』確定」
凶撫は本棚から一冊の本を取り出し、真ん中あたりのページを開いて見せる。
「こんな傷でしょ?」
開かれたページに載っていたのは釘で彫ったような、十字の傷の写真。
「そうだ! まさしくこれだ!」
「うん。じゃあ黒鎧はきっと『聖装』だね」
「聖痕……聖装……」
聞いたことのない単語の連続だ。
「一つずつ解説しようか。まず聖痕についてだね。聖痕はいわば神様の刺青。一週間ほどの儀式で付けることができる。聖痕を得るとまず、全ての魔術的素養を失う。魔力を全て失い、一生魔術を使えなくなるってわけだ」
「なんだそれは。何の得もないじゃないか」
「凛音ちゃんは相変わらずツッコミが早いね。結論を急ぐのは君の悪い癖だ」
天草が言い淀む。思い当たる節があるんだな。
「もちろん対価はあるさ。魔術的素養を全て失う代わりに、肉体の機能を大幅に上昇させることができる。肉体強度も五感も生命力も常人とは比較にならないレベルになるんだ。聖痕を得て、魔を失った存在を『聖騎士』と呼ぶ」
魔力の対価に体力を得るわけだな。
なるほど。黒岩が俺に一度斬る権利を与えた理由がわかったな。恐らく、ただの剣撃では奴の肌に傷すら付けられなかったのだろう。
「聖痕についてはわかった。聖装について教えてくれ」
「いいとも吉数君。聖装とは聖騎士にしか扱えない武装だ。その黒鎧、不知火の人間では装着すると何かしらの不具合が出ただろう?」
「あ、ああ。黒鎧を着けると全身が灼けつくように痛み、実際に火傷が出来ていた」
やはりね。と凶撫は笑う。
凄いな。不知火にとって不明瞭だった要素が次々と一人の少女によって解明されていく。
いまハッキリわかった。この女は不知火に必須の存在だ。
「聖装は魔を拒む特性を持っている。つまり、魔力を持っている人間が聖装を待つと拒絶反応を起こすわけだな。魔に強い装備だから、当然魔術に対しても強力な耐性を持つ。聖装の刃は魔を絶ち、聖装の盾は魔を弾く。正直、かなり厄介だ」
魔術に対して強い耐性を持ち、更に天草曰くかなり硬い。
弱点としては魔術ほどの多彩な用途が無いことか。
「しかし聖痕を扱い、聖装を量産できるレベルの魔術師となると相当だな。面白い……亜羅水に居るであろう魔術師と力比べしたくなってきたよ」
お、これは良い流れじゃないか?
「ねぇ凛音ちゃん、今の不知火の状況、教えてくれる?」
「あ、ああ! もちろんだ!」
天草は嬉しそうに凶撫に不知火の現状を教える。
天草は凶撫のことが嫌いなんだろうが、それは構ってもらえないからで、芯の部分では凶撫のことを気に入っているのかもしれないな。いわばツンデレ? っていうやつなのだろうか。
不知火の現状を聞くと凶撫は眉を八の字にして、
「なんだよぉ~、不知火の状況終わってんじゃんかよ~。な~にやってたんすかぁ妖刀衆さんはよぉ~、寝てたんじゃないっすかぁ~? 本気でお国を守る気あったんすか~? 努力が足りないんじゃありませんか~?」
「すまん空蔵、やはりコイツは斬る!」
「落ち着いてください」
前言撤回。普通に仲悪いぞコイツら。
「三都奪還ねぇ。現状じゃ夢物語だな。僕がいれば、夢物語じゃなくなるけど」
「なら手を貸してくれ。お前が軍に加わってくれるなら、俺の抜刀術をいくらでも見せてやる」
凶撫は『その言葉を待ってました』と言わんばかりに指を鳴らした。
「交渉成立だ♪ この枢木凶撫がこの腐った盤面をひっくり返してやろう」




