第10話 最硬の結界
妖刀『荒喰』。
妖刀衆の一人が城を氷漬けにしたとか言ってたからな。この刀も相当特別な『異能』を秘めているんだろう。
「荒喰は血を操る刀だ」
血を操る、か。ならば刀が纏っているこの赤い液体は血液か。道理で鉄臭いと思った。
「こんな風に」
襲い掛かってくるゴブリンたち。
天草は刀を振るう。すると刀から半月の形をした血液が飛び出て、ゴブリンの一匹を両断した。血液のカッター……凄まじい切れ味だ。
「どうだ? 凄いだろ」
「ええ。驚きました」
「これが一つ目の能力『罰血』だ。刀に貯蔵した血液を自在に操る」
「貯蔵? っていうことは……」
「ああ。血液を吸い取る技もある。それこそ第二の能力、『罪血』!」
今度は血液を纏わず、その刀で直接ゴブリンを突き刺す。
「喰い荒せ」
ゴブリンが――一気に干からびる。
まるで全身の水分を失ったかのように。枯木のようになってしまった。
「刀身で触れた血液を吸い取る力だ。生物の血液とは大体ひと繋ぎだからな。ひとたび血管を貫けば、一気に全身の血を抜ける」
ということは一撃喰らえば終わりか。
たとえ手だろうと貫かれれば終わり。恐らく軽く斬られただけでもそれなりの血液を持っていかれる。
かと言って距離を取れば第一の能力『罰血』で、今まで喰らってきた血液を操り遠距離攻撃を仕掛けてくる。隙の無い、恐ろしい妖刀だ……。
「弾けろ」
枯木のようになったゴブリンの体が、弾け飛ぶ。
刀から吐き出した血液を体内で破裂させたのだろう。天草は最初に罰血で殺したゴブリンの血液も刀で吸い取る。
「よし、進むぞ」
「はい」
妖刀……凄い力だ。妖刀衆が四人、ってことは、囚われている雲禅という奴が持っている妖刀を除いても、後二本、不知火には妖刀がある。登龍関で長く耐えられている理由がわかったな。恐らくこの妖刀の力のせいで亜羅水は攻めあぐねていたのだろう。
「ここだ」
案内されたのは山壁の前。
その山壁の途中に、巨大な洞穴がある。洞穴には家がある。メカチックな家だ。不知火の里にある家々とはまるで違う。21世紀の日本を知っている俺ですら近未来的と感じる家だ。
「登るぞ」
「ここを?」
「もちろんだ」
「梯子とか無いんですか?」
「ない」
距離にして20メートル程か。20メートルの命綱無しロッククライミング……やるしかないな。
空蔵吉数の肉体に感謝しつつ山壁を登り、洞穴に入る。
一階建ての一軒家。
家の全身によくわからない配線やパイプが巻き付いている。
扉の前に行く。扉のドアノブに天草が手を伸ばすと、青い光の壁が現れて天草の手を弾いた。
「これは?」
「凶撫が設置した結界だ。これは妖刀でも破ることができない」
天草はすぅっと空気を吸い込み、
「頼もう!!! 私は天草凛音!!!! 枢木凶撫、貴殿を王邸魔術師として我が軍に招きたい! すでに華姫様の許可は取ってある! 門を開けよ!!!!!」
どんな防音室も貫通する声量。
鼓膜がひりつく。大声を出すなら先に言ってほしかった。
「やはりダメか」
「ガン無視ですね」
「せめてこの結界を破れれば、首根っこ掴んで引っ張り出せるのにな」
「破っていいんですか?」
「なに?」
俺は一歩前に出る。
「やめておけ。妖刀衆の誰も破れなかった結界だぞ。いくらお前の抜刀術が凄くても絶対に破れん。刀を失うだけだぞ」
「俺の抜刀術は多分、なんでも斬れます。理屈はないけど確信はあります」
「世迷言を……」
「世迷言かどうかは今、わかります」
俺は抜刀の姿勢を取り、声を張り上げる。
「枢木凶撫殿! あと十秒待つ! 返事が無い場合は、この結界を斬る!!!」
十秒。返答無し。
「……では」