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第六話 黒蝕の骸骨騎士






「何を言って…」






残存魔力量は六割程度。魔力強化は消耗が激しいため解除してあるが、観察のスキル、集中強化のアーツはつけっばなしだ。幸いにもスケルトンの動きは先程の騎士と比べ、かなり鈍重なもので、俺でも容易に見切る事か可能なのだが、こちらは数が問題だ






「そんな、まだ増えてる…わたし一人じゃ押さえきれない…」






獲物も使い慣れた物ではないし、相手の攻撃を一度でもまともにくらえば戦闘の継続は困難。負傷し、能力を充分に発揮できなくなれば、その時点で俺達の敗北はほぼ決定してしまうような最悪の状況







まるでお伽の英雄譚みたいだ。はは、ははははは。面白い。傑作だ。こんな状況でも妄想に走ってしまえるのだから、身体は全く危機感を感じていないのだろう






脳は透き通るようにクリア。思考は良好。案外この程度、余裕なのかもしれないなんて誤認すら簡単に信じ込めてしまえるくらいだ






「さて、それじゃあ騎士さま。お先に失礼」






芝居がかった、わざとらしい敬いの意を込めた、仰々しい一礼。呆気に取られたような騎士さまの顔は見た目の年相応の少女の顔。はは、そうだそれだよそれ






規律に縛られた真面目様じゃなくて、今にも泣き出しそうな、恐怖の色なんかじゃなくて。その顔。出来れば笑顔が見たかったけど、こんな状況で贅沢は言ってられない






さて。名残惜しいが格好つける為にも、先陣を切らせて貰おう






前方の剣持ちのスケルトン三体。一先ずはあれを標的とする。方針としては囲まれてしまわないように注意しつつ、確実に数を削る。飛び道具持ちのスケルトンが居なかったのは不幸中の幸いだ






ごく僅かな魔力を用いた【魔力強化】により身体能力をほんの少しだけ向上させ、なんとかまともに剣を振るえるように調整。重心を前方へと倒れ込むようにして駆け出し、突発的な速度を確保






充分な速度をもって放たれた重剣の一撃は、スケルトンの頭蓋を粉砕、その後ろのスケルトンの胸骨等を巻き込み、二体のスケルトンの討伐せしめた。また、討伐には至らずとも、複数のスケルトンの手足などの骨の、部分的な破壊に成功し、連中の行動に制限をかける事にも成功した






初撃は上々。しかしここからが本当の戦闘だ。先程の攻撃は、ある程度の距離があり、狙いを定め、的確な一撃を放つことが出来たが故の攻撃。スケルトンらとの距離がこうも近くては助走をつける事は出来ないし、悠長にじっと狙いを定めるなんて事をしていたらこちらの方が攻撃を食らって御陀仏だ






先程の強襲が通じた事から、スケルトン自体はそこまで強くはないように感じる。脅威度で言えば村の周辺に時々出没する鎧蟻(アーマード・アント)ど同程度だろうか






しかし数が多い。倒しても倒しても次から次に沸いてくる。一向に数が減っているような気がしないし、なんなら増えているようにすら感じる。このままでは囲まれてしまう。一度距離を取ろうと周囲のスケルトンを牽制するように剣を振るう






足が動かない。何だこれは。討伐した筈ではないのか。なぜ、この魔物は頭蓋を砕かれてもなお、生きているのだ







「気を付けて。 手配中の死霊術師が産み出したスケルトンは特別製です。核となる魔石を砕かない限り、いくら骨をバラバラにしてもすぐに元通りになってしまいます」






便利な身体を有しているようだが、弱点さえ分かれば敵ではない。足に絡み付いたスケルトンの魔石を胸骨ごと踏み砕き、拘束から抜け出し、攻撃に転じる。頭を狙っても意味がない。狙うのはあくま胸の魔石だ。スケルトンらには仲間と連携するという考えがないらしく、皆それぞれに単調な攻撃を繰り返すだけ。これなら俺でも充分に対処できる






ちらりと彼女の方へ視線を向けてみるが、流石騎士。パワーが違う。彼女が軽く一凪するだけで、スケルトンは容易には粉砕され、周辺のスケルトンまで纏めて吹き飛ばしている。見たところ魔法なんかを併用している様子もないし、素の身体能力だけであれだけの現象を発生させているのだろう。本当に頼りになる






それに比べて俺はどうだ。ああくそ、考えるな。一度考えてしまえば、頭に残り続けてしまう。それは思考の邪魔になる。怖い。スケルトンが。見たことの無い、未知の存在が。どうしようもなく、怖い






対処は出来る。このまま戦う事ができれば勝てる筈なのだ。なのにどうして、俺の足は震えている。俺の身体は怯えている。簡単だ。それは相手が未知であるからだ。俺が相手の事を知らないからだ。故にこのような単調な攻撃ですら避けることに必死になって、返しの一撃を挟む隙を、みすみす見逃している






怖い。怖い怖い怖い。もう逃げ出してしまいたい。どうしてあの時、彼女を置いて逃げなかったのか。激しく後悔している。彼女一人でも充分な時間を稼げたのではないか。それこそ、程度の群れなら、彼女一人でも全滅させる事が出来たのではないか。ああそうだ。今からでも遅くはない






もう、逃げてしまおう





 


「ッ──危ない! 避けて!」 







思考の海に溺れ、周囲の状況確認が疎かになっていた。どうしようもなく、愚かだった。その結果がこれだ。彼女は俺を庇って、左腕を負傷し、立ち上がる事も困難な程に大きなダメージを負ってしまった







「気を付けてください…あれは、ただのスケルトンじゃない…あれは、骸骨騎士(スケルトンナイト)、おそらくこの集団の統率役だと思われます」






辞めろ。辞めてくれ。そんな事、言われなくたってわかってる。知りたくない。俺はもう、逃げる事にしたんだ。こんなのやってられるか。命がいくつあっても足りやしない







「彼の者に光の加護を、【聖属性付与エンチャント・ホーリー】ごめんなさい、これくらいしか出来なくて…」 







なんで、なんで俺に魔法をかけた。辞めろ。嫌なんだ。怖いんだ。もううんざりなんだ。死にたくないんだよ。俺はお前みたいに強くないんだ。戦いたくないんだ、戦えないんだよ







「まだ、まだ、終わってません。わたしも、戦えます」 






怖い。辞めたい。逃げたい。でも、それは正しくない





覚悟を決めろ。ビビってんじゃねぇよ。俺。俺は勇者の末裔なんだ。この程度で、負けるわけがねぇ。なら、何を恐れる必要がある






意識を集中させる。割れるような痛みを排し、情報を貪り、咀嚼する。相手はただのスケルトンだ





 

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