第二十七話 再来の死霊術師
学生とはいえ、Sクラスの生徒は王国内でも有数の実力者だ。学院からの装備品の提供を受け、班単位でパーティーを結成した後、彼らは状況の鎮圧を図る為に、王都の各所へと向かった
「フェイ、お前は残れ」
俺は続く事を許されなかった。足手まといを連れて動けば、何が起こるかわからない。戦場に完全な安全など存在しない。でも、気に食わない
「ったく、クラスメイトは命懸けで王都を護ってるってのに、お前はここでだんまりか。良いご身分だこと」
誰も居なくなった第 修練場の隅で踞っていると、正面から無理難題ばかりを言う教師の声が耳に届いた
「まぁそりゃそうだよな。お前なんかが着いていった所で邪魔になるだけ。役立つどころか事態を悪化させかねない、ハッキリ言ってお前みたいなのは害悪なんだよ。弱い癖に意地だけは強い、チグハグ野郎」
「お前に、何がわかる」
才に恵まれているお前に。万物をねじ伏せる力のあるお前に。誰にも縛られず、皆を意のままにするお前に、何不自由なく自由奔放、悠々自適に生きてきたお前に、俺の何がわかる
感情が手中から離れていくのがわかった。支配下を脱し、どろどろとした怒りがこみ上げるのがわかっていた。でも止められなかった。蓋をしてしまえば、爆発して、死んでしまいそうだった。
惨めで堪らなかった。実力もない癖に、怯えて、震えて、縮こまっている自分が。感情のコントロールすらままならない。誰が悪いのか。俺だ。弱い俺が悪い
自覚しているんじゃない。自覚したつもりになっている。だから怒りが沸いている。一対何様のつもりで、ものを言っている。お前に、お前に
「俺の何が…」
「知るかそんなもん。お前みたいなのに死霊術師の配下の討伐なんて荷が重すぎるだろ」
あっけらかんと言い放つシェードの表情は歳不相応に悪戯に笑っていた。その笑みが嘲りの性質を得ていないものだと、経験が俺に認識を促した
「だからお前はAクラスと合流して、逃げ遅れた住民を各地の避難所へ誘導しろ。学院からの支給品が教室に用意してある。回収したらそのままAクラスの教室に混ざってろ」
どんな意図があってそんな指示をしたのか。その真意は伺うことが出来ない。理解が出来ない。Sクラスが規格外の集まりなら、Aクラスは最優秀の集まりだ。間違っても最低底の実力しか持ち得ない俺の居て良い場所じゃない
そんなこと、わかってる。わかっているからこそ、シェードの指示の意味がまるで理解できなかった。しかし逆らうことも出来ない。言われるがままに俺は第ニ修練場を後に、教室への階段を駆け上がった
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生徒達が教室へ戻り教師からの説明を受けているのを横目に、廊下を走り抜け、高さのある階段を駆け上がり、漸く教室がある階まで登ってこれた。静寂が支配する無人の空間に俺の床を踏みつける音だけが響く
開放されたままの扉を潜り、教室内部へ侵入すると、俺の机の上にシェードの言っていた学院からの支給品らしき物品が四点、机の上に並べられていた
鞘に納められた一本の両刃の直剣。添えられた殴り書きのメモによると壊れにくくなる頑丈、鋭さの増す鋭利のスキルと、治癒魔法が付与された品らしい
下手に突飛な性能のものでは扱いきれないだろうし、これだけでもありがたいのだが、他に防護のスキルが付与された戦闘服。三度に限り致命傷を退ける指輪。破壊することで対象一人を学院へと転送する結晶石と至れり尽くせりだ
小型のバックパックは空間魔法により容量を拡張されているらしく、瓶に詰められた液状の回復薬が十個。小粒の魔石のような赤い丸薬、魔力回復薬が三粒。包帯、消毒液などの簡易治療キットが収まっていた。それらを素早く身に付け、再び廊下へと飛び出し静寂が支配する階段を駆け下りる
先程戦闘服に着替えている際に窓から、Aクラスの面々が既に学院から出て街に向かおうとしているのが見えた。どのグループに加われば良いのかもわからないのに、指示すら受けられずに現場に直行だなんて馬鹿げてる。息を切らしながらもAクラスの集団に駆け寄り、呼吸も荒いまま教員に声をかけた
「ああ、君か。シェード先生から話は伺っているよ。卓越した魔力の操作技術と優れた観察眼を備えているらしいね」
そんな大層なものは持ち合わせちゃいない。俺にあるのは恥と後悔だけだ。英雄になるには要らないもの。不必要で持っていてはならないものばかりも抱えて、拾って来てしまった。役立たずなんだ。使い物にならないゴミなんだ。だから期待した目をしないてくれ。俺に期待しないでくれ
「…? そうか。まぁいい。早速だが、君には逃げ遅れた住民らの救出、民間人の避難誘導に加わってもらう。ナルカ」
「うわ、うちのパーティーの応援ってコイツっすか? コイツ入学早々にシェルタ様に楯突いて返り討ちにされたって噂の問題児じゃないですか。実力も怪しいし、第一よく知らない人間をパーティー入れたくないんですけど」
「まぁまぁ、俺もシェード先生にいきなり頼まれて困ってるんだよ。引き受けてはくれないか? な? 頼むよ」
無能の押し付け合い。たらい回しにされなかっただけ良かったのだと思おう。渋々という様子で、ナルカは俺の方に向いて一言
「いい?ってか話聞いてる? 着いてくるのは構わないけど、くれぐれも勝手な行動はしない事。貴方の些細な失敗で、うちのパーティーメンバーの命が危険に晒されるなんて御免だから」
釘を刺された。本当は着いてくるなと言いたかっただろうに教師の手前言えなかったのだろう。だからわざわざ遠回しに言ったのだ、棒立ちしてろと。ただの木偶に成れと
ナルカの後に続きパーティーメンバーとも顔を合わせたのだが、ナルカを除いた十人のパーティーメンバーも俺の顔を見るなり声を潜めて密談に勤しんでいる。歓迎されていない。されないことはわかっていた。どうってことはない。どう思われようが、知ったことではない。