ラーメン
こんな話を聞いた「ラーメン」
毎月15日になると、必ずやって来る老人がいる。
決まって醤油ラーメンだ。
「ラーメン」
と一言注文し無言で食べていく。
その食べ方は、
実に不味そうな食べっぷりだ。
眉間にシワを寄せ、渋い顔をして、いわゆる苦虫を潰した様な表情で食べる。
「そんなに不味いなら食べなきゃいいのに」
先輩は、いつもつぶやく。
ある時、
その老人がめずらしく話しかけてきた。
「にいちゃん、俺の顔黒くないかい?」
「えっ?」
「少し黒いですかね、日焼けでもしたんですか?」
「やっぱり黒いか…」
「原爆の光、浴びたからかな」
「何ですか?」
「俺、昔、長崎に居たんだよ」
「よ…よく助かりましたね」
「防空壕の一番奥に居たからな、」
「あの時、いつものように空襲警報が鳴ってさ。俺ら、「また鳴ってら』と思って渋々防空壕に入ったんだよ。そしたら、もの凄い音と熱風が吹いてさ地響きがしたんだよ。そしたら、次から次へと人が入って来てさ、一番奥になっちゃたんだよ。前の方の奴ら溶けてたよ」
「……」
「お客さん、何歳なんですか?」
「90歳だよ」
「90まで生きたら、超長生きすっよ。影響ないすっよ、ハハハ」
「……」
しばらくして、
その老人は来なくなった。
先輩がつぶやいた。
「あのじいさん来なくなったな。清々したよ」
「……」
ある月15日、
中年の男性がやって来た。
「ラーメン」
と、注文した。
男性は、黙々とラーメンを食べた。
「ご馳走さん、お勘定」
男性はお金を渡した。
「にいちゃん、ラーメン美味かったよ」
「ありがとうございます」
先輩は喜んだ。
そして、
男性は、最後に一言いった。
「親父の言ってた通りだ…」